鈴木亮平 『西郷どん』では「共感力」を大切に演じる
2018年のNHK大河ドラマ『西郷(せご)どん』は、勇気と実行力を武器に幕末時代を切り開いた西郷隆盛が主人公。高い演技力に加え、役にあわせて体型までも大きく変える鈴木亮平が大役に挑んでいる。波瀾(はらん)万丈な人生をどう体現しているのか。
林真理子の小説『西郷どん!』を原作に、『ドクターX』や14年の連続テレビ小説『花子とアン』など、数々のヒット作を生み出した中園ミホが脚本を手掛ける。
男女問わず誰からも愛されたという主人公・西郷吉之助(後の隆盛)を演じるのは、『花子とアン』で一気に知名度を高めた鈴木亮平だ。
「俳優としてはこれ以上ないほどの機会で、喜びというより、責任の大きさに身が引き締まります。エネルギッシュな作品にできるようにと、撮影に臨んでいます。
西郷さんの故郷・薩摩には、考えるより動くことを美徳とするところがあるようで、吉之助さんは当たって砕けろの精神や、行動力が本当にすごい。そのおかげで、安請け合いしてしまったり、すごく身分の高い人にいきなり近づいていくから、危ない目にもあったり。でもその無鉄砲さが、後に彼の財産になるんです。
僕も大学時代、自分でプロフィールを作って芸能事務所に飛び込み営業をして、嫌がられたことがありましたが、そこで生まれたご縁もあったんです。今34歳ですが、当時の熱さをずっと忘れずに持っていたいと、若い吉之助さんの人物像を見て、改めて感じています」
広く知られる人物である一方、大きな黒目の肖像画が本人でないのは有名な話。その生涯には多くの謎が残っている。この作品ではどのような人物になっているのか。
「20代の吉之助さんを演じていて、大切にしているのは『共感力』。相手の気持ちに寄り添って、困っていたり、悲しんでいる人の痛みを自分のものにしてしまう。そこが彼の最大の魅力だと思います。よく泣きますし、体は大きいけれど繊細な男。一方で失敗も多くて、実際に演じてみると、思っていた以上に未熟なんですよ。未完成な吉之助さんがどんな経験を経て、あれだけ人間力の高い人物に変化するのか。ギャップがある分、ワクワクします」
西郷生涯の師となる島津家第28代当主、島津斉彬(なりあきら)を渡辺謙が、幼なじみで西郷に影響を与え続ける、盟友でありライバルの大久保利通を瑛太が演じる。
「謙さんは顔合わせの挨拶で、『鈴木に一言だけ。お前は前だけ向いて突っ走れ。前のめりで転んだら、僕らが全力でサポートするから』とおしゃってくれて。後でこそっと、『お前とはしばらく話さないよ』と。殿としての緊張感を常に持っていらっしゃる。これぞ自分の目指すべき道ですし、尊敬できる先輩と出会えて幸せです。
瑛太くんはにこやかですが、現場ではそんなに話さないんです。僕とは違って、大久保さん的。おこがましいですが、謙さんとは共通点があって、瑛太くんとは真逆のタイプ。そこもドラマに通じるかもしれないです」
中園さんに成長を見せたい
薩摩言葉にはいまだに慣れないといい、セリフよりも、正しいアクセントを覚えるほうに時間がかかるそうだ。そのほか、時代劇ならではの苦労も味わっている。
「草履やわらじを履くんですけど、本物の藁(わら)なんです。最初は藁が食い込んで、皮がめくれてきて。今回使っているのが、足の指もかかとも全部出る足半(あしなか)で、走るのは楽なんですけど、やっぱり痛いんですよ。足の裏が強くなった今は、突き指との戦いです(笑)。現場に入って当時の日常を経験して、時代劇の扮装ってこんなにも大変なんだと驚きました」
脚本の中園とは、鈴木にとって出世作となった『花子とアン』に続いてのタッグとなる。
「また呼んでくださったことがうれしいですし、自分の成長を中園さんに見せられなければ意味がないと思っています。中園さんの脚本には、グッとくるセリフが多くて。序盤に見せ場があった、沢村一樹さん演じる赤山靭負(ゆきえ)先生や、斉彬さんから言われる言葉が、1つひとつ強烈。クランクアップの頃に振り返りたいから、吉之助さんが言われた大切な言葉を1話ずつノートに書き留めてます。
薩摩男たちの生き様が描かれるなかで、主従の関係や男同士の友情に、男女の恋愛のようなニュアンスがあるのも、とても中園さん的だと思います。男が男にほれるということがよく伝わってきます。恋愛パートも素晴らしいので、注目していただきたいです。
まずは、精一杯取り組んでいきます。結果、18年末の『ヒット番付』のようなランキングに、『西郷どん』が入ったらうれしいですね(笑)。1年間、皆さんに楽しんでいただけるように頑張ります」
(ライター 田中あおい、内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2018年2月号の記事を再構成]
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