改革進まぬ日本 実行力あるリーダー育てよ
ダイバーシティ進化論(出口治明)
新しい年が始まった。2018年の僕の課題は、たくさん学ぶこと。新たなチャレンジの場を与えられたからだ。1月から大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任した。4月で70歳になるが、気力と体力が続く限りいくつになっても挑戦し続けたいと思っている。
APUはダイバーシティ(多様性)にあふれる大学だ。約6000人の学生の半分は留学生で、出身国・地域は89にのぼる。一方で、地域に根ざす「グローカル」な大学でもある。APUの個性と強みを生かし、いい教育といい研究ができる場をつくれるよう、最大限の努力をしたい。
大学のあるべき姿として共鳴するのが、エジプトにある世界最古の大学の一つ、アズハル大学の3信条だ。「入学随時、受講随時、卒業随時」。勉強したいと思ったときに入り、学びたいことを学び、学び終えたら出て行く。大学とは本来、自らの意志で勉強しに行く場だ。しかし日本では多くの場合、就職のための通過点。必死に勉強しなくても卒業できるし、企業は成績ではなく人柄で採用を決める。学生は勉強しなくて当たり前と見られがちだ。
日本の大学は残念ながら、世界での存在感を失いつつある。英教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが17年に発表した世界大学ランキングで、東大は過去最低の46位。京大は74位で、上位200校に入ったのは2校だけ。中国は7校がランクインしている。
教育予算の少なさも目立つ。経済協力開発機構(OECD)によると、国内総生産に占める教育機関への公的支出割合(14年)は3.2%で、比較可能な34カ国中最低だ。大学のレベルの向上には優秀な教員と学生、職員を集めるのが重要で、それには資金が必要。未来の競争力の先行指標である大学の厳しい評価の現状に危機感を持つべきだ。
いくら一生懸命に改革しているつもりでも、他国の対応スピードのほうが速ければ、世界との差はどんどん開いていく。17年の世界経済フォーラムによる男女平等ランキング(ジェンダー・ギャップ指数)で、日本は144カ国中114位と過去最低の順位になった。改革は時間との競争だ。世界に目を向け、時代の変化に対応しながら、やるべきことを期限を決めて着実にやる。百年の計を描く力と実行力を併せ持つリーダーが、日本のあらゆる分野で必要とされている。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2018年1月22日付]
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