男女の賃金に依然、格差 「ジェンダー後進国」の日本
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
世界で最も保守的な国のひとつと言われるサウジアラビアの女性にとって、2017年は歴史的転換の年になるかもしれない。女性の自動車運転の解禁が決まったのだ。原油依存体質の脱出を目指し、石油以外の産業育成を促進して経済活性化を図るサウジアラビア政府。女性の社会進出は国全体の生産性向上の必須条件だと考えたのであろう。
これをきっかけに、サウジアラビアの女性活躍は一気に進むかもしれない。すでに高いレベルの教育を受けているサウジ女性は期待と興奮で胸を高鳴らせているに違いない。
思い起こせば約30年前、日本女性も歴史的転換を期待した時期があった。男女雇用機会均等法が施行された1986年だ。それまでは女子学生が基幹職として就職する道はほとんど開かれていなかった。
当時大学生だった私は社会が変わると意気込んだ。しかし女性総合職1号で入社した先輩を企業訪問すると、なぜか女性だけが制服を着ていた。結局私は、ニューヨークで米国企業へ就職することになる。そして数年前に帰国した日本では、女性活躍推進が30年前と同様に叫ばれていた。
先日発表された経済協力開発機構(OECD)のジェンダーリポートで、日本は相変わらず「ジェンダー後進国」の位置づけだと指摘された。政府肝いりの女性活躍推進は一定の成果を生んでいるようにも見えるが、実は日本の動きは国際的にはかなり見劣りする。
確かに女性の就業率はOECD加盟国平均並みに向上した。子育て世代の女性の離職率を表すM字カーブも、解消されつつある。しかしいくら多くの女性が働いても、いまだに男性同様の昇進や昇給は困難だ。
それは先進国最大レベルの25.7%(15年)という男女賃金格差に表れている。80年代後半に総合職採用された女性は幹部候補となる年齢だが、ほとんどが離職している。企業の女性取締役比率は先進国平均の20%に対し、3.4%(16年)と最低水準だ。
女性活躍推進の掛け声は素晴らしい。しかしこのままのスピードでは、すでに2周遅れの感がある人材育成の世界レースから日本は完全に脱落してしまう。いずれ中東のイスラム圏にも抜かれてしまうかもしれない。女性活躍推進は日本経済の死活問題であるという認識が浸透すれば、スピード感を伴った変革が期待できるのだろうか。
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。
[日本経済新聞朝刊2017年10月16日付]
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