「梅毒」が増加中 報告数は2010年の約7倍に
2010年から増加し続けている性感染症の梅毒の勢いが止まらない。国立感染症研究所の最新集計(9月15日発表)によると、2017年第1~35週(1月2日~9月3日)の報告数(感染者届出数)は3728人に上り、前年同時期(2016年第1~35週)の報告数2876人より約3割増えた。
第1四半期(第1~13週)と第2四半期(第14~26週)、つまり、2017年の前半6カ月で2500人を優に超えており、このままのペースで感染者が増え続ければ、年間5000人を突破する恐れもある。男女ともに増えているが、特に女性の増加が顕著で、2016年の報告数は2010年の約11倍に増えた。
感染者数は6年間で7倍以上に増加
日本の梅毒患者は、1950年頃までは年間20万人以上にも上った。しかし、その後、ペニシリンによる治療が普及したことにより激減し、1990年代に入ってからは年間1000人を下回っていた。
それが2010年を境に増加に転じた。2016年の報告数は4557人と、2010年の7.3倍。男女別ではそれぞれ6.4倍、11.2倍で、女性の増加率が目立つ(下図)。ただし、常に報告数の7~8割が男性であることも忘れてはならない。
都道府県別に見ると、東京都が圧倒的に多いが、その周辺県や大阪府、愛知県などからも多数報告されている。
女性感染者の大半が15~35歳だ。梅毒にかかっている女性が妊娠すると、早産や死産、重い胎児異常をきたす恐れがある。また、男女を問わず、梅毒を放置しているとさまざまな臓器が冒され、命が脅かされる。
感染の可能性を疑ったらすぐに検査を受け、感染していたら早期に適切な治療を開始する必要がある。だが、何より大事なのは、感染しないよう一人ひとりが注意することだろう。
不特定多数との性行為の増加が原因か
梅毒急増の背景には、不特定多数との性行為の増加があるとみられている。梅毒は、性的な接触(感染者の粘膜や皮膚との接触)などによってうつる。具体的には、性器と性器、性器と肛門(アナルセックス)、性器と口(オーラルセックス)の接触などが原因となる。
梅毒は、2010~2013年ごろは男性間の性行為で感染するケースが増加していたが、2014年以降は異性間の性行為による患者が増えている。特に女性では、大多数が異性との性行為による感染だ。
梅毒の病原体である梅毒トレポネーマの感染力は非常に強い。しかも、初期症状(陰部、口唇などのしこりなど)を見逃してしまうことが多い。このため、感染を自覚しないまま相手にうつしてしまい、蔓延の原因となる。特に、早期梅毒(第1~2期=感染後約3年間)の患者は、相手にうつす可能性が高い(1回の性行為で感染させる確率は約30%とされる)ため、性行為を控える必要がある。最近は、このように感染力の高い早期梅毒の報告例が男女ともに多い。
コンドームの適切な使用でリスク減少、ただし万能ではない
梅毒の感染を予防するには、何より不特定多数との性行為を避けることが大事だ。性感染症に感染しているかどうか明確ではない相手との性行為では、コンドームの使用が不可欠だ。梅毒のさらなる増加を警戒する厚生労働省も「コンドームの適切な使用によりリスクを減らすことができる」と強調している。ただし、梅毒は陰部や肛門、口腔以外の場所にも潰瘍などの病変が生じるため、コンドームだけでは完全に感染予防できないことにも留意しなければならない。
コンドームの使用に際しては、以下のような点に注意を払おう。
・装着前に穴が開いていないかどうかを確認する
・精液溜めに空気が入らないよう装着する
・射精後、ペニスを腟から抜く時にコンドームが腟内に残らないようにする
コンドームの使用期限は通常は5年とされ、それを過ぎると劣化して破損のリスクが高まるので注意したい。高温多湿の場所に放置するなど、保管状態が悪い場合は劣化も早まる。
こうした感染予防策は、エイズやクラミジア、淋菌感染症など、梅毒以外の性感染症を予防することにもつながる。エイズの原因ウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染者の約半数が梅毒に感染しているとの報告もある。自分とパートナー、さらに生まれてくる子どもを守るために、ぜひ感染予防に努めていただきたい。
(ライター 高橋義彦)
[日経Gooday 2017年9月6日付記事を再構成]
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