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進化形ゴキブリ殺虫剤 死骸は見たいか見たくないか

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日経トレンディネット

日本には約50種類も生息しているというゴキブリ。夏に現れるイメージが強いが、殺虫剤国内シェアトップのアース製薬によると、ゴキブリ対策グッズ商戦の最初のピークは5月だという。「温暖化の影響でゴキブリが姿を見せる時期が早くなっているうえ、『ゴキブリを見ないで済むよう、出る前に退治しておきたい』というニーズが年々強くなっている」(アース製薬)。そのため、各メーカーでは2~3月に新商品を発売し、ドラッグストアでは4月上旬ごろから対策商品の棚が作られるのが通例だ。

ところがフマキラーは2016年、シーズンも終盤近くの8月1日に、世界初というワンプッシュ式ゴキブリ駆除剤「ゴキブリワンプッシュ」を発売した。「大掃除のついでにゴキブリ対策をする方がいて、実は12月にも売り上げの小さな山があることが分かったので、8月の発売を決断した」(フマキラー)。その読みが当たり、この商品はゴキブリが少ないはずの冬にバカ売れしたという。2017年2月20日にはアース製薬が同じスプレータイプのゴキブリ駆除剤「ゴキプッシュプロ」を、フマキラーも2017年3月に新商品「ゴキブリプッシュプロ」を発売。今夏は3品が激戦の様相を呈している。

これだけを聞くと、ゴキブリワンプッシュのヒットを受け、アース製薬が類似の商品を出したように見える。だが実は、同じスプレー式のワンプッシュ殺虫剤でも、この2つは真逆ともいえるコンセプトなのだという。いったいどういうことなのか。そもそもなぜゴキブリワンプッシュは真冬にバカ売れしたのか。

死んだゴキブリを見届けたいvs見たくない

フマキラーによると、従来の家庭用のゴキブリ駆除剤は、大きく4つのタイプがあった。煙状の薬剤を散布してゴキブリに付着させて駆除する「くん煙・くん蒸剤」、ゴキブリが出現した際にスプレーを直接噴きかけて退治する「エアゾール殺虫剤」、誘引剤の入った捕獲器に粘着のりが付いた「トラップ型捕獲器」、そしてゴキブリが好む餌に殺虫成分を混ぜた「ベイト剤(毒餌剤)」だ。

これらはそれぞれ良い点と不満点がある。エアゾールタイプの殺虫剤やトラップ型の捕獲器は、ゴキブリに遭遇しないと駆除できない。ベイト剤は本当に食べているのか、効いているのか見ることができず、効果が実感しにくい。くん煙・くん蒸剤は観賞魚やペット、住人を守るための準備が面倒。これらの不満点をすべて解消したのがゴキブリワンプッシュなのだという。

使い方は、ゴキブリが隠れていそうなところにワンプッシュするだけ。奥まで薬剤が届き、隠れているゴキブリまで逃がさず駆除できる。ユニークなのはゴキブリが隠れた場所で死ぬことを防ぐため、あえて薬剤量を調整していること。同商品はゴキブリの神経を興奮させる薬剤なので、薬剤を浴びたゴキブリは興奮して、潜伏場所から飛び出してくる。これを「フラッシングアウト」というが、この追い出し効果により外で死ぬので、効果がはっきりと実感できるわけだ。それでいて薬剤は家具などの隙間にしかかからないので、床の汚れを気にせずに済む。待ちぶせ効果は約2週間続くため、ゴキブリの卵がふ化する2週間おきを目安に使うと、ゴキブリのいない環境を作り出すことができるという。

こうした点から、「見えないけど、あの家具の裏あたりに絶対いる!」と気配を感じながらも対策を行っていなかった新規ユーザーを取り込めたことも、ヒットした要因の一つだという。「この"駆除効果の見える化"というコンセプトを販売店や卸関係者の方々が面白いと感じてくださり、季節外れにもかかわらず棚を作ってもらえたことが大きい」(フマキラー)。

特に売れたのが、年末の大掃除期だ。「ゴキブリは冬にいなくなるわけでなく、見えないところでじっとしているだけ。その弱っているタイミングを狙ってスプレーし、家具の奥にいるゴキブリを一掃することで夏の発生をある程度防ぐことができる」(フマキラー)。こうした使い方を提案し、大掃除用の洗剤などと並べて陳列したところ、「大掃除用洗剤の単価はそれほど高くないこともあって、意外に買っていただけた」(同)。つまり、大掃除用洗剤の"ついで買い"だったのだ。そのときに効果を実感した人が、夏の本番シーズン前にも購入したため売れ続け、年間定番商品になりつつあるのだという。

2017年型は「見せずに殺す」がトレンド

同じワンプッシュ型スプレーでも狙いは真逆なのが、アース製薬のゴキプッシュプロだ。こちらは「暴れるゴキブリを見ないで簡単退治!」が大きな売り。同社が実施したゴキブリに対する印象調査によると、「ゴキブリは死骸であっても見たくない」 という人が64.2%もいたことに着目し、「見ないで退治したい」「知らない間に死滅していてほしい」というニーズに応える商品として開発したという。フマキラーのゴキブリワンプッシュがゴキブリを外に飛び出させるのに対し、ゴキプッシュプロはゴキブリがフラッシングアウトしにくいため、スプレーしても飛び出してくることがないのが特徴だ。

また使用環境によっても異なるが、持続成分フェノトリンの作用で、スプレーした箇所はゴキブリの駆除効果が約1週間続く。そのため、見えないところに巣をつくってしまっている場合でも、効果的に駆除ができる。強力な駆除効果がある成分イミプロトリンの働きで、見かけたゴキブリに直接スプレーしても素早く退治できる。「ゴキブリエアゾール売り上げトップ[注1]である『ゴキジェットプロ』の速効性と、見ないで簡単退治できるゴキブリ誘引殺虫剤売り上げトップの『ブラックキャップ』[注2]の技術を融合させた、ゴキブリ駆除剤の進化版」(アース製薬)だという。

[注1]インテージSRI ゴキブリエアゾール市場 2014年1月~2016年12月実計販売金額(ゴキジェットプロシリーズ計)

[注2]インテージSRI ゴキブリ用毒餌剤市場 2015年1月~2016年12月実計販売金額(ブラックキャップシリーズ計)

ワンプッシュタイプでは発売が早かったゴキブリワンプッシュがこれまで売り上げトップを独走していたが、ここにきてアース製薬のゴキプッシュプロが追い上げている。「直近の売り上げデータでは、(ゴキブリワンプッシュを)抜きつつある。これからさらに伸びると予想している」(アース製薬)。しかし、フマキラーも少し遅れて、ゴキプッシュプロと同じくゴキブリを見ずに殺せる「待ちぶせ殺虫タイプ」のゴキブリプッシュプロを発売。持続性の高い殺虫成分でゴキブリがすみ着きにくい環境を作り出すと同時に、直接スプレーして退治できる点も同じだ。

もう一つ共通しているのが、女性の手でも持ちやすいコンパクトなサイズであること。殺虫剤はゴキブリが出た瞬間に使いたいので身近に置きたいが、従来のエアゾールタイプはサイズが大きくて目立つうえ、女性の手では瞬時に使いにくい場合もある。「『450mlなどのロング缶は押し続けると疲れる、押しにくい』という女性からの声もあった。指の力の弱い女性でも、ゴキブリプッシュプロはこれまでのものと比べてとても押しやすいと好評」(フマキラー)だという。

(ライター 桑原恵美子)

[日経トレンディネット 2017年6月15日付の記事を再構成]

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