20代女性、母にベッタリ離れられません
著述家、湯山玲子
母が大好きで、今も昔もベッタリです。買い物は必ず一緒に行き、夜も18時には帰宅し、晩ごはんには母の手料理を食べないと不安です。おかげで飲み会やデートに行った経験がありません。おかしいと思いながらも、母から離れられません。母に依存しているのでしょうか。親離れ・子離れが必要なのでしょうか。(兵庫県)
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私の青春期は、昭和一桁後半生まれの母親に怒られてばかりでした。彼女は娘である私の行動、趣味が気に食わず難癖を付ける。友人たちも同様で、思春期以上になれば「アナタたちのことは理解不能だわ!」と、母親が娘にさじをなげるという子離れ状態が、私たち世代の世間相場だったのです。
しかし今どきの母娘は、アイドルのコンサートでいっしょに黄色い声を上げまるで親友状態。相談者もまさにそれですが、「母と晩ご飯を食べないと不安」とまでに関係性が密だとちょっと問題だと思います。
なぜなら、相談者の人生は母親がいなくなったとたんに立ち行かなくなってしまうから。他人同士がつながるには、間合いの取り方や忖度(そんたく)の仕方を経験から学ぶ必要があります。しかし相談者は他者との交流の機会を絶っている。結果、母親の死後、親密な人間関係を持とうとしても、やり方も解らず、歳をとったがゆえにエネルギーもなく、相当困難なことが予想されるからです。
相談者と母親の関係は「愛のある相互依存」です。そこにあるのは相手を慈しむ愛情だけにタチが悪い。母親は「娘が傷ついて悲しまないように、目の届くところにおいて守りたい」という愛。しかしその愛の光の影には「娘を自分の支配下に置き、自分に仕えてほしい」という欲望が透けて見える。娘の方は「親の悲しむ顔を見たくない」という愛。その影には「生き方を母親の判断に任せ、いつまでも子どもでいることで社会との摩擦や責任を回避できる」という欲目が見え隠れしています。
相談者は母親の意に沿わないことを「仲の良さに水を差す」と抑圧してきたフシがある。ならば一度刃向かってみては? 当然、母親はびっくりして悲しむでしょうが、そこを耐え、母と自分は違う人間で、だからといって自分の母への愛はなくならない、ということを伝え続けるしかないのだと思います。
母娘間の葛藤、特に娘を追い込む無意識の母親の存在は、多くの当事者による小説やルポルタージュ、分析が出版されています。それらを読んでふに落ちることがあれば、問題の解決の糸口になっていくでしょう。
[NIKKEIプラス1 2017年6月24日付]
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