夏の風物詩から大進化 高くても売れる、高級扇風機
本格的な夏を目前に、家電量販店の扇風機売り場が多種多様なモデルでにぎわっている。夏の風物詩ともいえる光景だが、昔とは事情が少し異なる。かつては数千円が当たり前だった扇風機も、今や1万円以上は珍しくなく、「売れ筋は2万~3万円台」という声もあるほど。最新扇風機はなぜ高くても売れるのか。
夏以外にも使える付加機能を搭載
扇風機の価格はここ数年でどれだけ上がったのだろうか。調査会社GfKジャパン(東京・中野)の調査によると、扇風機の平均販売価格(税抜き)は、2009年が3600円だったのに対し、2016年は5840円と、この7年で約1.6倍にアップしている。販売台数は2009年を下回っていることから見ても、1台あたりの単価が上がっていることがわかる。
扇風機が高価格化する契機となったのは、2011年の東日本大震災。震災後の電力不足による節電意識の高まりから、消費電力が少ない扇風機が飛ぶように売れたことは、ニュースなどでも話題になった。中でも注目を集めたのが、バルミューダが発売した扇風機「Green Fan」シリーズ。従来の扇風機に使われていたAC(交流)モーターではなく、幅広く回転速度を調整できるDC(直流)モーターを搭載し、今までとは違う風質と省エネ性を実現。その後のバルミューダ製品にも共通するすっきりしたデザインも支持され、人気となった。以来、各社が扇風機の開発に力を入れたことで高機能化が進み、単価も上がっていったというわけだ。
とはいえ、これまでは数千円が相場だった扇風機。どんなに高機能と言われても、さすがに3万円は高すぎると思う人もいるだろう。しかし最新の扇風機は夏に使うだけの家電ではなくなってきている。
パナソニック・リビング商品課の土井鴻樹氏によると、扇風機の需要は落ち着いてきた一方、高価値扇風機の需要は引き続き高く、「金額ベースで見ると、市場の約半数を3万円以上の高価値扇風機が占めている」という。その要因は「サーキュレーターや暖房、空気清浄など、扇風機以外として使用できる付加機能が搭載されたこと」(土井氏)。つまり扇風機は季節家電から、1年中使える家電へと進化しつつあるというのだ。
確かに年間を通して使えるなら、高くても元が取れる。季節ごとに出し入れする手間がなく、そもそも収納場所を確保する必要もないなど、メリットも多い。そこで今回、付加機能を搭載し、1年中使える高価格扇風機を紹介する。
三菱電機「R30J-DU」/空気循環を促す立体首振り
シーズンを通して使えることから、「SEASONS(シーズンズ)」との愛称を持つ三菱電機「R30J-DU」。インテリアになじみやすいカラーを採用し、季節家電というより家具のような外見を持つ。特徴は、中間ポールを外すだけでサーキュレーターとしても使える点。ロング気流ファンガードが風をまっすぐ遠くまで飛ばすほか、首を真上に向けたり、左右50~180度、上下10~90度の首振り、さらには8の字を描くような3D立体首振りにより、空気の循環を促してくれる。夏はもちろん、暖房による室内の熱ムラが起こりやすい冬に便利な機能だ。
遠くまで、心地よい風を届けるためにこだわったのが羽根をカバーする「ファンガード」だ。羽根の回転だけでは風が拡散してしまうため、ファンガードのラウンドパターンをあえて羽根の回転とは逆方向に湾曲化。これにより風の拡散が抑えられ、まっすぐな風が10m付近まで到達するという(※定格運転時)。先端がなめらかに湾曲した羽根「エクストラウィングレットファン」による静音性にもこだわった、毎日使いやすい1台だ。
シャープ「PJ-G3DG」/空気を浄化・消臭
シャープ「ハイポジション・リビングファン PJ-G3DG」は、空気を浄化するという「プラズマクラスター」を搭載する。これは同社独自のイオン技術で、扇風機の風に乗って部屋中に広がり、空中に浮遊するカビ菌を除菌するほか、衣類の嫌なにおいを消臭するもの。洗濯物の部屋干し時には「衣類消臭モード」で風を洗濯物に当てることで、洗濯物が早く乾くだけでなく、生乾き臭を消臭してくれるという。またソファなどに染み付いた料理のにおい、洋服や寝具に染み付いた体臭などには、集中的に消臭する「スポットモード」が活躍する。
風のなめらかさも特徴的。2種類の蝶(ちょう)の羽を応用した「ハイブリッド・ネイチャーウイング」は、羽根のうねりやくびれがムラの少ないなめらかな風を生むという。この風は心地いいだけでなく、扇風機の風に当たり続けると起こる体表温度の低下を抑制する。プラズマクラスターイオンが肌表面に水分子コートを形成し、肌表面の水分の蒸発も抑えるなど、扇風機が引き起こしがちな不快感を低減させる機能も搭載されている。
パナソニック「F-BP25T」/斬新なデザイン、心地よい風
2015年に初代モデルが初登場し、斬新なデザインが注目を集めた「創風機Q(キュー)」。扇風機のような羽根はなく、吸気口から吸い込んだ空気をターボファンが高圧化し、風速約17.8m/sの噴出気流を吹き出す。さらに噴出気流は周囲の空気を誘引するため、吹き出し口風量の約7倍まで風量を増幅。直線的でパワフルな風がサーキュレーターとしての効果を発揮する。
扇風機としての快適性にもこだわり、人が心地よいと感じる自然のリズム「1/fゆらぎ」を搭載。信州の蓼科高原に吹く風を計測し、風速や強弱のリズムなどのデータを採取・分析することで、長時間当たっても心地よい風を実現したという。このゆらぎにより、長時間あたっても体温の低下が抑えられ疲れにくい。首振りスタンドと組み合わせれば、最大360度回転し、部屋全体に風が届けられる。
ダイソン「Dyson Pure Hot+Cool Link」/空気清浄しながら涼風も温風も
羽根のない扇風機として世間を驚かせたダイソンのエアマルチプライアーが年々進化。ついに空気を清浄しながら温風も涼風も出す機能を搭載し、1年中使えるマルチ空調家電となった。
特筆すべきは、空気清浄力。PM2.5よりはるかに小さいPM0.1レベルの微細な粒子を99.95%除去するほか、有毒なガスまで除去するなど、一般的な空気清浄機より高い性能を備えている。
さらに専用アプリ「Dyson Linkアプリ」を使えば、本体を設置している室内はもちろん、住んでいる地域の空気の状態がスマートフォン等で確認でき、外出先から遠隔操作も可能だ。
パナソニック「F-CWP3000」/10万円超えの超高級機
最後に番外編として紹介するのが、今年5月にパナソニックから発売された10万円を超える扇風機「プレミアムリビング扇 RINTO(リント) F-CWP3000」だ。
「凛(りん)としたたたずまい」を語源とする扇風機「RINTO」には、これまで紹介したモデルのようにサーキュレーター機能もなければ空気清浄機能もない。しかし支柱には高級家具に使われるウォールナット、羽根には気品あるべっ甲色、台座には漆器のような漆黒色を施すなど、和の伝統を感じさせる美しさにこだわった逸品だ。もちろん「1/fゆらぎ」を追求した風質や基本機能はそのまま踏襲。現在は、全国の高級旅館やホテルに導入されているという。今後の動向が注目される。
(家電ライター 田中真紀子)
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