ハイエンド・スマホの画質競争　HDRがトレンドに

大手キャリアから、スマートフォンの2017年夏モデルが出そろった。上位モデルに搭載された新機能として注目なのが、動画の4K/HDR（High Dynamic Range）再生機能だ。これからのスマホでは「HDR」がトレンドも引っ張るキーテクノロジーになるのだろうか？

「HDR」とは、映像の輝度情報の幅を拡大して、色やコントラストの表現をより豊かにする技術だ。人の目で見た情景に近いリアルな映像をパネルに再現でき、精彩感のインパクトは4K以上、立体感は3Dをも凌ぐと評価されることもある。ちなみに最新のスマホやコンパクトデジタルカメラの多くには、静止画・動画撮影のメニューに同じ「HDR」という名前の機能があるが、こちらは露出が異なる画像を複数枚撮影して合成し、白トビや黒つぶれのない画像を作るというもので、技術的には別のものだ。

映像のHDRを体感するには、HDR対応のテレビやプレーヤー、ディスプレー、映像コンテンツが必要だ。メーカーは消費者がHDRの対応/非対応を区別しやすいよう、HDR対応製品にロゴを付けて販売している。

そんななか、今年はスマートフォンにもHDRの波がやってきそうだ。最初に登場したのはソニーモバイルコミュニケーションズが2017年夏モデルとして発売する4K/HDR対応のスマホ「Xperia XZ Premium」だ。

スマホがHDR技術を取り入れる背景には、スマホ周りのデジタル技術が成熟し、メーカー各社がスペックだけでデバイスを差異化するのに苦労していることがあるだろう。そこで、従来とは目線を変え、「映像や音がキレイ」「かんたんにキレイな写真が撮れるカメラ」「手に馴染む大画面&スリムデザイン」といった具合に体験軸で魅力をアピールするようになってきた。HDRもそのための一つだ。

「スマホの5～6インチ程度の小さなディスプレーで差が分かるの？」と疑う人もいるだろう。だが、従来のSDR（Standard Dynamic Range）のディスプレーを搭載するスマホと見比べてみれば、実力差は意外なほどにはっきりと分かる。筆者はXperia XZ Premiumと、2015年秋発売の4Kスマホ（ただしSDR）の「Xperia Z5 Premium」の映像を何度か比べて見ているが、映像空間の再現力は明らかに最新モデルが上だと思う。

ハイエンドスマホを中心にHDR化は進みつつある。ソニーモバイルに続き、サムスン電子もHDRに対応した「Galaxy S8/S8＋」を発表した。同社は2016年モデルの「Galaxy S7 edge」も、Android OSを7.0以上にアップデートすると同時にいくつかの機能を強化してHDR対応にするという。

シャープの「AQUOS R」もWQHD（2560×1440）画素でHDRに対応した。AQUOS Rは従来のSDR映像を、独自開発の「バーチャルHDR」技術によってHDRに近い映像に変換する機能を持っている。YouTubeや「dTV」（NTTドコモとエイベックスデジタルが展開する動画配信サービス）などの一部のアプリと、フルセグ・ワンセグの映像に効果を発揮するようだ。HDRコンテンツが潤沢に供給されるようになるまでは、最もHDRの効果を身近に感じられるスマホになるかもしれない。

17年6月20日時点ではまだ日本での発売に関する発表がないが、LGエレクトロニクスもフラグシップスマホ「LG G6」でHDRに対応する。このように17年前半、わずか3カ月の間にHDR対応のスマホが矢継ぎ早に発表されているのだ。

スマホのHDR化に合わせてスマホ向けコンテンツのHDR対応も進んでいる。

17年5月24日にはNTTぷららの「ひかりTV」が、スマホ向けの4K/HDRサービスを開始すると発表。6月中旬の配信開始時には、オリジナルを含む20本前後の作品がそろった。また、ドコモとエイベックスデジタルが展開するdTVも、映画や音楽を中心としたHDRコンテンツの配信に乗り出した。『アメイジング・スパイダーマン』など、HDRの効果を感じやすいハリウッド映画の人気作品が期間限定で見られる。

海外のコンテンツサービスでは、Amazonプライム・ビデオやNetflixも、スマホ向けのHDRコンテンツを充実させていくことを17年2月末時点で宣言している。筆者はMWC2017の会場や米Netflix本社を取材した際に、それぞれのデモ映像を視聴した。端末の発売のスケジュールが固まってくれば、時を置かず、HDRコンテンツ始動の発表があるのではないだろうか。

テレビも同様だが、スマホはHDR対応のディスプレーを搭載しただけで高画質とはならない。画づくりのノウハウや、データ容量の大きなHDR映像を上手にハンドリングするための信号処理技術の作り込みも重要になってくる。これから「高画質」が最上位クラスのスマホの競争軸になってくれば、画づくりのノウハウに一日の長を持つ日本メーカーがシェアを拡大できる可能性も出てくる。また、次のiPhoneがHDR対応になるのかにも注目だ。

（ライター　山本敦）

［日経トレンディネット 2017年6月12日付の記事を再構成］