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カリスマの直言

都の金融構想 注目されるESG推進の視点(安東泰志) ニューホライズンキャピタル会長兼社長

2017/6/19

「国際金融都市構想」の骨子について記者会見する小池都知事(9日、都庁)
「東京都の国際金融都市構想は課題もあるが、投資家にとって歓迎すべきことだ」

 東京都の小池百合子知事は6月9日の定例記者会見で、アジアの金融ハブをめざす「国際金融都市構想」の骨子を発表した。骨子は税負担の軽減や商慣行の見直しなど、これまで実現できなかった課題にチャレンジする野心的な内容となっている。東京市場の活性化は個人投資家にとっても歓迎すべきことで、実現に向けての小池氏の手腕が注目される。

 「東京をアジアナンバーワンの国際金融センターとして復活させよう」という目標を達成するためには、ガラパゴス化した規制、税制、業界慣行にまで踏み込むことがどうしても必要だ。都は昨年12月、「海外金融系企業の誘致促進等に関する検討会」で金融ワンストップ支援サービスの拡充、英語解説書の整備、外国人の生活環境整備といった対策をまとめた。こうした金融インフラの整備に加え、本丸である規制改革に切り込むため、都は昨年11月、国内外の有識者から構成する「国際金融都市・東京のあり方懇談会」(座長:斉藤惇KKRジャパン会長)を設置した。

■都市としての成長戦略

 この懇談会には、小池氏自らが委員として参加しているほか、全国銀行協会、日本証券業協会、日本投資顧問業協会、日本ベンチャーキャピタル協会、そして日銀、独立系プライベートエクイティファンドといった金融業界の代表が出席。さらにはロンドンが金融街シティーの顔役として行政トップとは別に置いているロードメイヤー(市長)の経験者のほか、国際銀行協会(IBA)の会長など海外から3人を迎えた。会合は日本語と英語の2カ国語が行き交い、効率的な議事進行がなされている。このため、意思決定は極めて迅速だった。5月20日には「中間とりまとめ」を公表しており、今回の骨子はこれまでの議論の結果を参考にしてとりまとめたものだ。

 都が国際金融都市をめざす背景には、都市としての成長戦略がある。少子高齢化の進展により東京の人口も2025年ごろを境に減少に向かうとみられている。それを乗り越えて成長を実現していかないと、激化する都市間競争に勝つことはできず、持続可能な都市にはならない。現在、日本の金融・保険業が国内総生産(GDP)に占める割合は5%に満たない。これに対して英国は12%である。仮に日本がこの比率を10%まで倍増させることができれば、東京、ひいては日本のGDPは約30兆円押し上げられるとの試算がある。また、後述する社会的諸問題の解決にあたっても金融が有効に機能することが期待される。

■金融改革は3つの観点で実行

 現在、東京はアジアの中で香港やシンガポールに、あらゆる面で後れを取っている。これを一朝一夕で取り返せるわけではないが、今回の骨子により、都は以下の3つの観点から改革を実行しようとしている。

(1)魅力的なビジネス面、生活面の環境整備
(2)東京市場に参加するプレーヤーの育成
(3)金融による社会的問題解決への貢献

 まず(1)だが、日本がアジアのライバルと戦っていく際に、どうしても避けて通れないのが税制の問題だ。東京の法人実効税率は30%を超えているのに対し、ライバルである香港は16.5%、シンガポールは17%だ。ロンドンも20%であるほか、米国もトランプ大統領が大幅な連邦法人税の引き下げを提唱している。これでは海外の金融系企業が日本にやってくるインセンティブに乏しい。中間とりまとめでは、こうした税制上の問題点をクリアし、少しでもライバル都市に近づくために、都が独自に対応可能な法人2税(法人事業税、法人住民税)の軽減はもとより、国税の法人税についても引き下げを国に働きかけるとした。

 また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などとの取引を求めて確実に東京に拠点を置くことが見込まれる資産運用業者などについては、金融庁と連携しつつ、金融業の登録申請などをスムーズに進める「ファストエントリー」を実現するとした。

 さらに、日本には全銀協・日証協といった業界団体はあるが、オールジャパンとして東京市場を海外に売り込んでいくプロモーション組織がない。そして中央官庁にも、金融事業者の規制・監督をする金融庁はあるが、金融産業のプロモーションを担う機能はない。したがって、都がその役割を担うべく、業界横断的なプロモーション組織の組成を後押しし、東京版のロードメイヤーを設置して官民一体となって東京市場を海外に売り込むことを明記した。

■ESG投資の推進に賞を創設

 (2)については、内外の独立系資産運用業者を育成するための新興資産運用業者育成プログラム(EMP)の導入に向け、都として必要な取り組みを検討する。また、金融とIT(情報技術)が融合するフィンテックの関連企業やベンチャービジネスの育成・誘致に向けて、東京版フィンテックセンターや、いわゆるイノベーションハブの設置の検討を盛り込んだ。

 筆者が注目しているのは(3)である。金融を通した都の社会的諸問題の解決だ。昨今、環境、貧困、教育、ブラック企業問題など、社会的諸問題の解決には、規制によるばかりではなく、環境、社会、ガバナンス(ESG)投資を推進することが有効であると考えられている(詳しくは2月20日付コラム「進化する社会的責任投資 ESGに期待」を参照)。小池氏は東京をアジアナンバーワンの国際金融市場とする大義をここに求めているといえるだろう。その象徴となるのがESG投資の推進に貢献した金融事業者などを表彰する「東京金融賞(仮称)」の制定だ。ESG投資の重要性が叫ばれて久しいが、大都市でESG投資を推進し、いわばESG先進都市を実現しようというのは都が初めてのケースになるだろう。

■都単独では実現が難しい施策も

 小池氏は昨年7月の都知事選挙の際に、「金融先進都市」「環境先進都市」を軸とする「スマートシティ」を公約に掲げており、今回の骨子は公約実現に向けた第一歩という位置付けとなる。ただし、骨子には(1)を中心に都単独では実現が難しい施策が少なくない。都は秋に向けて構想の最終とりまとめを行う。そのとき小池氏は、高らかに「東京版金融ビッグバン」を宣言することができるのか、政策の実現性はどこまで高めることができるのか。一連の改革で東京市場の魅力が増せば、取引の厚みが増して市場の流動性が高まるなど個人投資家にとってもメリットは大きい。東京市場の未来がかかる改革の行方に注目したい。

安東泰志
 1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、88年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。2002年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業。三菱自動車工業など約90社の再生案件を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。

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