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同性カップル 住宅購入や保険金請求、ハードルは高く ファイナンシャルプランナー 竹下さくら(5)

2017/6/16

PIXTA
 いま付き合っている同性の人がいるのですが、家を借りるのが思いのほか大変なので、中古マンションの購入を考えています。彼女が頭金を出し、私が住宅ローンを組む形で検討中ですが、共有名義にできますか。(東京都・Uさん・29歳)

 Uさんが相談に来たのは5月中旬。セクシュアル・マイノリティーのパレード「東京レインボープライド」の余韻から、2人で一緒に部屋を借りようと不動産会社をはしごしたものの、色よい返事がもらえず悲しい気持ちに。そんなとき、ふと住宅購入を思い立ったそうです。Uさんは大柄な女性で、以前にライフプラン設計で相談に来たことがあったのですが、今回は同性パートナーと一緒に来訪しました。最初はあくまでマンション購入の話で、保険の相談の予定はありませんでした。しかし最終的には保険を無視しては語れない話になったのです。

【相談者プロフィル】
相談者:Uさん(29歳女性、会社員)
同性パートナー:Eさん(28歳女性、派遣社員)

【加入している保険】
Uさん:
・終身医療保険(入院日額5000円など)
・個人年金保険(65歳から年間60万円)
・自動車保険
Eさん:
・保険加入なし

■民間賃貸住宅、門戸狭く

 家を借りようとしたものの、不動産業者や大家の偏見などで不愉快な思いをする同性カップルは少なくありません。2人が友人ではなく大切な人同士であることを理解してほしいと思いますが、現場では不動産会社の担当者自身の考え方や偏見というフィルターもかかりがちです。

 現状、民間では「ルームシェア可」「2人入居可物件」といった物件に友人として入居したり、2人が自営業や自由業であれば「事務所使用可」「SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)向き」といった物件を利用するのが、不本意ではあっても無難な借り方です。

 公的住宅では、UR賃貸住宅が2003年から同性カップルの入居申し込みを受け付けています。大阪府の公社住宅や三重県伊賀市、那覇市の公営住宅(低所得者向けの県営住宅・市営住宅など)など、同性カップルが入居できる物件も増えており、東京都では世田谷区で区営住宅への入居を可能にする条例改正案が区議会に提出される動きもあります。しかし2人は「買ってしまえばとやかく言われず、不愉快な思いをすることもなくなる」と共有名義でのマンション購入に前向きでした。

■デメリット多い共有名義

 正直に言えば、2つの理由から共有名義での住宅購入はおすすめしません。1点目は共有名義では住宅ローンを組むのが難しい点です。住宅ローンは一般的に、自分または親族が住む住宅の取得という前提で低利で融資するので、法律婚ではない夫婦(事実婚カップルや同性カップル)との共有を希望する場合はなかなか審査に通らない現状があります。

 「単独名義にすれば審査に通るかもしれないが、私が死んだ後にEさんが住み続けられなくなりそう」との不安がUさんから漏れました。まさに気がかりな問題の2点目がこれで、どちらかに万が一のことがあった場合です。

 たとえば、一人っ子のUさんにもしものことがあると、Uさんの財産は法定相続分にのっとってすべて両親に引き継がれます(表参照)。つまりマンションは、Uさんの親とEさんの共有名義になるのが普通です。マンションの今後のことなどでUさんの親とEさんが無関係で済むはずもなく、いたたまれない状況になることは容易に想像できます。

 そこまで説明すると、Uさんは「遺言書でマンションはEさんに残すと書けばよいのでは」と聞いてきました。確かにそうすればマンションはEさん名義になり引き続き住み続けられますが、Uさんの親が遺留分減殺請求をする可能性は考えておく必要があります。

 遺留分とは、相続人(子、直系尊属、配偶者)に法律上確保された、遺言によっても侵すことができない最低限度の財産のことです(ただし兄弟姉妹には遺留分はない)。遺言書は亡くなった人の意思のため、基本的には尊重して優先されるべきものですが、仮に遺留分を侵害された相続人(Uさんの両親)が、遺留分の範囲まで財産(この場合は3分の1)の返還を請求する遺留分減殺請求権を行使すると、Eさんは、その分の財産を返還しなければならなくなります。(表参照)

 Uさんの財産がマンションの持ち分3000万円だけと仮定すると、Eさんは1000万円のキャッシュを用意できなければ、マンションを処分して支払わざるをえず、住むところをなくす可能性もあります。こうしたトラブルを避けるためには両親の理解が大前提なのですが、2人の関係を両親にオープンにできない間はおすすめできません。

 「では単独名義で買って遺言書を書き、遺留分減殺請求に備えたお金を用意できれば、なんとかなるのでは?」ということで、Uさんの相談内容が生命保険に及ぶことになりました。

■加入ハードルは低下、課題は請求時

 数年前まで、同性パートナーを保険金受取人にする生命保険契約を結ぶことは、ほぼ不可能でした。それが渋谷区の同性パートナーシップ制度が始まったことを契機として、一般的に「戸籍上の配偶者または2親等内の血族」しか指定できなかった死亡保険金受取人に、同性パートナーも指定できる可能性が出てきました。今では十数社で、保険会社所定の要件を満たせば、前向きに審査をするというニュースリリースが出されています。

 そのため「遺留分減殺請求の際の軍資金にする」「残されたほうが住むところをなくした場合の軍資金を用意する」などの理由から、生命保険の活用が視野に入ってきています。しかし、やはり同性パートナーを保険金受取人にする際にも、2人の関係を両親に紹介し理解してもらうことが大前提です。生命保険の保険金を受け取るためには、死亡診断書を保険会社に提出する必要があるからです。

 今のように入院中にお見舞いに行くのも許されそうにない関係のままでは、死亡診断書を入手することはまず無理。2人の関係が両親に理解してもらえていない状態では、保険会社が保険金請求書類について緩和する動きが出ない限り、支払った保険料がムダになる可能性もありえることを伝え、保険の話を終えました。

 現在、加入している医療保険や個人年金保険については特に見直す部分は見当たりませんでしたが、自動車保険については、「本人・配偶者」限定にした特約でも、同性パートナーを「保障範囲の運転者」とする保険会社も出てきています。生命保険業界が同性カップルに配慮した動きを始めたのはここ2年ほどのことなので、今後の動きに期待します。

(今回の話は、ほかの同性カップルにも知ってもらいたい情報として、ご本人たちに許可をもらって概要を紹介しています)

竹下さくら
 
ファイナンシャルプランナー。損害保険会社・生命保険会社に勤務後、FPとして独立。主に個人のコンサルティングを行うかたわら、講演・執筆等を行う。主な著書に『「保険にはいろうかな」と思ったときにまず読む本』(日本経済新聞出版社)、『知らないと損をする!  間違えない保険選びのツボ』(同)などがある。

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