夫がクチャラー 仕事の会食が心配です
作家、石田衣良
夫がクチャラーです。クチャクチャと食べ、お茶やみそ汁もズルズル吸い込みます。仕事先との会食で、相手を不快にさせていないか心配です。夫を傷つけずに注意する方法はありますか?(東京都・50代・女性)
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ふふふ、この相談は実におもしろいですね。クチャラーなんて言葉は初めてききましたが、なるほどあなたのパートナーは、たべものはクチャラーで、汁ものはズルラーなのですね。
夫婦だと朝と夜、それに週末の食事はだいたいいっしょのはず。あと冬休みと夏休みもあるから、一年でなんと1千回近い食事のたびにあなたは彼の食習慣により不愉快な気分にさせられている。これは立派な離婚の理由にもなる重大な過失です。神経の細やかな人なら耐えがたい苦痛でしょう。
ところがあなたは、ご自身の不快よりも彼の心配をしている。仕事先との会食で彼がクチャ&ズルをかまして、業務上のマイナス評価がつかないか。なんとか彼の気もちを傷つけずに、悪い癖を直す方法はないか。
ここまで読んで、ぼくはすっかり感心しました。おふたりの愛情にまったく問題がなさそうだからです。短い相談の文章でさえ、真に相手を思いやる気もちがあるかないかは、すぐにわかるもの。あなたがたの結婚生活は大筋のところうまくいっていて、彼もクチャラー以外はあなたにやさしいいい夫なのでしょう。
さて、そこで肝心の矯正法ですが。残念ながら、大人の男性の生活習慣を劇的に変える方法は存在しません。50を過ぎたいいオジサンです。それまでに築いてきた苦闘の歴史がある。その歴史によって生みだされた習慣なのです。いくら妻とはいえ簡単に改めさせるなどということは不可能です。
立場を逆にして想像してみてください。あなたが夫から、いきなりここを改善しろといわれたら、冗談じゃないということになりませんか。しかもあなたの夫のように生理的な快感がもっとも大切な食事のたびに指摘されたとしたら、美味しいものもまずくなります。
そこで、ぼくからのアドバイスは「おおめに見る」こと。ちょっと気になるけど、この人は旦那としてわるくない、まあ許そう。自分だって完璧な人間でもないし、別にいいや。仕事のうえでマイナスになるのは夫本人の責任。でも昇進やボーナスには、クチャ&ズルはさして響きません。
一番大切なのはふたりの結婚生活がつつがなく続くことです。相手にも自分にも甘く。これが幸福な結婚の秘訣です。
[NIKKEIプラス1 2017年6月10日付]
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