週2回たった4分の体メイク スロー&クイックの衝撃
「ラクな健康法ほど効率がいい」――。最新の研究などから、科学的に証明されつつある事実だ。
例えばランニング。体脂肪を落としたいなら、歩くのと同等か、むしろ遅いぐらいのスピードで走る「LSDランニング」が最も有効ということがわかってきている。人と会話しながら走れる程度が目安だ。一流のアスリートならいざ知らず、「極端な糖質制限」「毎日10kmの走り込み」などのストイックな健康法は、多くの人にとってむしろ効率が悪いことになる。
「2重の刺激」で強烈に効かせる
ジムに行く時間はないが、スマートな体は手に入れたい。そんな人に最適な筋トレがある。1回僅か4分で効率よく筋肉に負荷をかけられる「スロー&クイック」トレーニングだ。
特徴は、まず極端にゆっくりした動きのトレーニング「スロー」を行い、その直後に素早い動きのトレーニング「クイック」を組み合わせて行う点。「スロー」では4秒かけて関節を曲げ、さらに4秒かけて関節を伸ばす。「クイック」では同じ動きをできるだけ速く繰り返す。いずれも関節は伸ばし切らないのが鉄則だ。
これがなぜ、筋肉を鍛えるのに有効なのか。例えば、重いダンベルを持つなどの強い力を発揮すると、筋肉が収縮して筋内の血流が悪化。すると血液の酸素運搬能力が奪われ、筋内が酸欠状態になる。「細かいメカニズムは解明されていないが、筋肉が酸欠状態になると疲労が進み、タンパク質が合成されることがわかっている」(東京大学大学院教授の石井直方氏)。
「スロー」なら、重りを使わなくても筋内を酸欠状態にできる。関節を伸ばさずに休みなく負荷をかけ続けることで、じわじわと血流が制限されていくためだ。いわば、筋肉を"だます"トレーニングといえる。「強い力を瞬間的に使うよりも、むしろ弱い力を長く発揮するほうが、タンパク質がより合成されるというデータもある」(石井氏)。
一方の「クイック」は、切り返しの加速を利用して瞬間的に強い負荷をかけることで、「スロー」だけでは引き起こせない物理的な筋損傷を生じさせる。石井氏とともにこのトレーニングを開発した近畿大学生物理工学部准教授の谷本道哉氏は、「筋肉の微細な損傷が修復される過程で、タンパク質のさらなる合成や筋線維の核の増加などが起きる。これらは筋肥大につながる刺激になる」と説明する。
スローで酸欠にし、クイックで速筋を鍛える
筋肉には、持久力に優れる遅筋と、瞬発力に優れる速筋がある。速筋のほうが肥大率が高いため、いかに効率よく速筋を使う運動に到達させられるかが筋肥大へのカギだ。スロー&クイックで筋肉を限界まで追い込むと、短時間で速筋を鍛えられる。
では、どれくらいの頻度でやるべきか。傷ついた筋肉が修復される期間を与えるために、実は適度な休息が必要。毎日ではなく、むしろ週2回の筋トレが効率的だという。速い動作を繰り返す筋トレは関節に負担がかかるが、「『スロー』の後に行えば、過剰な速さは筋疲労のために抑えられる。関節への負担が少なくなり、ケガのリスクを軽減できて安全」(谷本氏)。
谷本氏が昨年、50~60代の被験者12人に対して、週3回のスロー&クイックを10週間にわたって継続する実験を行った。その結果、全員の筋肉が肥大。平均で3mmの筋肥大が確認された。「筋肉は何歳でも強くなる。むしろ高齢になるほど伸びしろが期待できる」(谷本氏)。
ダイエットにはスクワット
太らないためには、下半身を鍛えるスクワットを優先的に行うべき。下半身には、大腿筋などの大きな筋肉が集まっている。ここを鍛えて基礎代謝を向上させれば、次第に安静時でも脂肪を燃焼できる体になっていく。
スクワットは基礎代謝の向上につながる筋肉の大腿四頭筋を鍛えられる。足は肩幅程度。がに股の要領で爪先を90度に開き、腕を真っすぐ前に伸ばす。膝をやや曲げた姿勢から上下する。膝を前に突き出さず、空気椅子のような状態に。「スロー」は上下4秒ずつ。「クイック」は同じ動作を素早く行う。
広い肩幅になるにはプッシュアップが有効だ。プッシュアップは床に膝を付いて肘を少し曲げ、両手を肩幅の間隔で突き、指先を内側に向けた姿勢から上半身を上下させる。膝を伸ばした状態で行うとさらに負荷が上がるが、床に膝を付けたままでも初心者には適度な負荷がかかる。
さらに腹筋を鍛えるなら「ニートゥーチェスト」だ。座った状態で手を後ろに付け、両足を床から上げ、膝を曲げて胸に近づけた姿勢からスタート。かかとが床に着かないように足を伸ばし、もとの姿勢に戻す。さらに、膝を伸ばした状態で足を上下させると、強い負荷がかかる。
筋トレ歴ゼロの記者でもパンプアップに成功!
体形が変化するまで、通常2~3カ月はかかるが、すぐ効果を実感できるパンプアップという現象がある。
筋疲労が限界まで達すると、筋内に乳酸などの代謝物がたまる。バランスを元に戻すために、筋肉が水分を吸収する。これが「パンプアップ」の仕組みで、筋肉を限界まで追い込めた証拠になる。
谷本氏の指導の下、記者と谷本氏でスクワットとプッシュアップのスロー&クイックを行い、どれくらいパンプアップするか実験した。腕と太ももにそれぞれペンで点を打ち、トレーニング前後の太さをメジャーで測った。すると、筋トレ上級者の谷本氏も、経験ゼロの記者も、筋肉が一時的に太くなることが確認できた。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2017年7月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。