プリンターはもういらない? 印刷はコンビニで
コンビニに当たり前のように置いてあるコピー機だが、実は近年、著しい進化を遂げている。文書の印刷やスキャンができるのは当たり前。スマートフォン(スマホ)の写真を手軽に印刷したり、オリジナルのハガキやカレンダーを作ったり、証明写真を印刷したりできる。さらには、住民票を取り寄せるサービスや、アイドルの写真を購入できるサービスもある。進化するコンビニのコピー機の便利な活用法と、そこで展開されているビジネスの現状を紹介する。
コンビニエンスストアで多くの人がお世話になる機械の1つに、「コピー機」がある。配布資料を作ったり、履歴書の控えを残したり、学生時代、試験前にノートをコピーするために順番待ちをしたり、人それぞれにコンビニでコピー機を使った体験があるだろう。
ところが、そんなコンビニコピー機が着々と、しかも大胆に進化していることを皆さんはご存じだろうか。「カラーコピーができる」「スキャンができる」「ファクシミリが送信できる」ぐらいまでは気づいていても、ネット経由でパソコンやスマホから書類を印刷できたり、書類のスキャンができたり、スマホで撮影した写真をきれいにプリントできたりとなると、知る人ぞ知る機能になってくる。
富士ゼロックスでマルチコピー機を担当する中央営業事業部 流通・サービス営業統括 アーケードサービスグループ グループ長の佐野広延さんは、こう語る。
「コンビニのコピー機は、当初の白黒コピーから、カラーコピー、FAXの対応、そしてインターネットにアップロードしたデータをプリントする『ネットプリント』、スキャン、写真印刷など、どんどん機能を追加してきました。住民票などの印刷ができる行政サービスや、アイドルなどのブロマイドを印刷するコンテンツサービスにも幅を広げています。こうした多機能化の進化は、お客さまがコンビニコピー機に求めるニーズを捉えて、機能を追加してきた歴史そのものです」
全国の街角に点在するコンビニの多くに、このような多機能なプリンター複合機が設置されているのだ。ビジネスでもプライベートでも活用しない手はない。まずは、最新コンビニコピー機の"基本"機能から説明しよう。
○家で印刷できないサイズもネット経由でプリント
○出張先や営業先で急に書類が必要なときに活躍
家で印刷できないサイズもネット経由でプリント
多機能化したマルチコピー機は、実は日本全国のほぼすべてのコンビニに導入されている。最大手の「セブン-イレブン」の約2万店舗には富士ゼロックスが、「ファミリーマート」「サークルKサンクス」「ローソン」などには約3万5000台をシャープが、それぞれ最先端のマルチコピー機を納入している。全国でざっと5万5000カ所以上に、多機能なマルチコピー機が設置されている計算になるのだ。
コンビニの最新マルチコピー機を使いこなす第1のキーワードは、ネットプリント(ネットワークプリント)だ。大手コンビニが導入しているマルチコピー機はいずれもネット経由で文書や書面を印刷できるネットプリントに対応している。パソコンからでもスマホからでも利用できる。
ネットプリントの操作を簡単に説明しよう。まず利用者はネットプリント(富士ゼロックスは「netprint」、シャープは「ネットワークプリント」)の会員に登録。パソコンならウェブブラウザーから、スマホなら専用アプリから、プリントしたいデータをクラウドにアップロードする。次にデータをアップロードした際に発行されるプリント予約番号やユーザー番号を持ってコンビニに赴き、マルチコピー機に入力すればOK。アップロードしたデータがその場でプリントされて用紙が手に入るという流れだ。どのコンビニでもほとんど差はない。
だから自宅やオフィスのパソコンからデータをアップロードしておけば、その場にプリンターがなくても最寄りのコンビニでプリントアウトが入手できる。自宅のインクジェットプリンターよりも鮮明なレーザープリンターで出力できるし、家庭向け機器では対応が少ないB4判、A3判といった大判用紙への印刷が可能だ。ファイル形式も、ワード、エクセル、パワーポイント、PDF、JPEG、PNGなどに対応しているので、一般的な文書なら問題ないだろう。
「最近では若い世代の人が自宅にプリンターを持たなくなってきています。新年の挨拶をSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で済ませる世代の人にとって、プリンターは自宅に必須の機器ではなくなりつつあるのです。レポート提出など、印刷した用紙が必要なときだけコンビニのマルチコピー機からネットワーク経由でプリントすれば、自宅プリンターは不要になるかもしれません」(富士ゼロックスの佐野さん)
実際に、自宅やオフィスのプリンター代わりに使われている例がある。それが確定申告の提出書類の印刷だという。シャープでパブリックプリント営業部 部長を務める黒木敏博さんは、「3月15日までの一定期間は、国税の申告書類の印刷が集中しました。自宅のインクジェットプリンターは、たまに使おうと思うとインク切れなどで使えないことがあります。期限内に確実に印刷するときの手段として、コンビニのマルチコピー機の認知が高まっているようです」と語る。
出張先や営業先で急に書類が必要なときに活躍
今後、ネットプリントの使い道で広がりそうなのが、国を挙げての「働き方改革」を迫られているビジネスでの用途だ。シャープの黒木さんは、「テレワークや直行直帰型の仕事形態が広まっています。オフィスと離れた場所で働く人が紙の資料を印刷してお客さまに持っていくような場合に、コンビニのマルチコピー機がネットワークプリンターとして役立ちます」と言う。
出張先で見積書の修正提出を求められたような場合や、客先でカタログなどの紙の資料を求められた場合、スマホやパソコン、タブレットでデータを用意してネットプリントのクラウドにアップロード。最寄りのコンビニで印刷して客先に提出すれば、ビジネスのタイムラグを極力減らすことができる。印刷するためにオフィスに戻ったり、多くのカタログをカバンに詰めて歩いたりという非効率な動きをなくせれば、働く人の負担も確実に軽減できる。
こうした法人向けの「出先のプリンター」需要に対しては、機器を製造する富士ゼロックス、シャープともに新しいサービスを提供している。それがネットプリントの「後課金」だ。コンビニのマルチコピー機は、通常の利用だと「1枚あたりいくら」といった料金をその場で支払う。個人の利用ならばそうした支払い方法でも問題は少ないが、法人がプリンターとして使うとなると毎回の支払いと、後々の経費精算の手間が問題になる。そこでネットプリントを法人契約にし、後からまとめて請求するのだ。
富士ゼロックスの佐野さんは、「法人契約している企業の社員は、オフィスのプリンターと同じようにその場で支払いをすることなく書類の印刷ができます。管理者側で誰がどの文書をどれだけ印刷したかといった利用状況を把握する機能もあるので、セキュリティー面でも安心して利用してもらえます」と語る。
マルチコピー機の用途は、こうしたビジネス寄りの文書ファイルの印刷にとどまらない。写真、ハガキ、戸籍の証明書・住民票の写しなどの公共書類なども手軽にコンビニで印刷できるようになっている。ますます自宅のプリンターがいらなくなりそうだ。
(ライター 岩元直久)
[日経トレンディネット 2017年5月16日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。