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スープストックが「婚活」レストラン なぜ?

日経トレンディネット

2017/6/5

スマイルズ 遠山正道社長(右)。1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事に入社。2000年にスマイルズを設立し、社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などを展開
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高橋晋平氏(以下、高橋): つい先日、中目黒に住んでいる友人から、このお店(中目黒高架下の「PAVILION(パビリオン)」)の話を聞いたんですよ。「『ROMAN』(ロマン)という独自の通貨を使う、面白いコンセプトのお店がある」と言っていて。今日来てみたら、「ここのことか」と。

遠山正道氏(以下、遠山): (コインをテーブルの上にのせて)これがロマンです。

高橋: 一見、外国の通貨のようですけど。目の部分が隠されているんですね。

独自の通貨「ロマン」

遠山: これ、私の横顔なんです。うちのクリエーティブが作ってくれたんですが、出来上がるまで私の横顔をモチーフにしているとは聞かされていなくて(笑)。

高橋: この店は、全部ロマンを使って注文するんですか?

遠山: ロマンはサービス専用の通貨なんですよ。料理やドリンクは普通に現金で支払うんですが。ここにロマンのメニューがあるんですけど。

高橋: この裏面の部分ですね。

遠山: 店内に小さなたるを並べたセルフワインバーというのを置いているんですが、それが1杯1ロマンですね。ちなみに、3ロマンは2000円、10ロマンは6000円です。10ロマン買っていただくと、1ロマンあたり600円になる。

セルフワインバーには有名人の名前も。1ロマンでこの中から好きなものが飲める

高橋: そう聞くと、10ロマンは得な気がしますね。

遠山: この「ラブロマン酒」というのは、普通にオーダーすると800円とか1000円とかするような種類のドリンクを1ロマンで出しているので、実際、得なんですよ。10ロマン注文していただくと、こういう「ロマン入れ」にスタッフが1ロマン、2ロマン、3、4、5と入れてお出しするんです。

これがロマン入れ

高橋: そもそもどうしてコインを使ってサービスを始めようと思ったんですか? 

遠山: 社員たちとご飯を食べながら、「もし、われわれが焼き肉店をやるならどんな店にする? 」みたいなとりとめもない会話をしているときに、「コインがあったらいいんじゃないか」という話になったんです。コミュニケーションを生むために、ずっと席にいるんじゃなくて、お客さん自身が店を回遊する仕組みをコインで作れたらいいなと。さっきのワインバーも、1ロマンで好きなワインが飲めて、中にはあれっと思うような立派な銘柄のものもあったりして。女性がワインを見ていたら、男性がやって来て「ロマンが足りないの?」と言いながら、ロマンを分けてあげるのもいいんじゃないかと。本当は1枚がロマンで、複数枚になるとロマンスと言いたかったんだけど、ちょっとそれは複雑になるのでやめようということになったんです。

高橋: 海外だと、知らない人からもドリンクおごってもらえたりするじゃないですか。でも、日本ってそういう文化はなかなかないですよね。ロマンが、初めて会った人同士が気軽に会話ができるような仕掛けになるということですね。

遠山: そうですね。あと、「一束の小さな小さなブーケ」というのがあって、1ロマンで花束をプレゼントできるんです。「あちらの紳士からです」みたいな感じで。あらかじめ水の入った花瓶が各テーブルに置いてあるんですが、ブーケをもらったときに差すための花瓶です。帰り際にはちゃんとブーケにして持って帰れます。

高橋: この「リトルシャンパンタワー」も、5ロマンと言われると。

遠山: これも得ですよ。

高橋: シャンパンタワーなんて、普通やらないから、やったこともないし。こんな形で5ロマンと言われると、すごく安い感じがするんです。やりたくなっちゃう。

遠山: スパークリングワインなんですけど、1本そのまま使い切っちゃいますから。1本3000円って考えると安いですよね。ちなみにこのお店はインスタにもよくあげてもらっているんですけど、シャンパンタワーはよく出てきます。

高橋: (スマホでインスタグラムを検索して)あった。ああ、すごい。

遠山: ゴージャスですよね。

高橋: これはすごい、これを5ロマンで。でも、これがロマンだと言われると、また世界観が変わります、言葉1つだけど。

■ラブレターは0ロマン

高橋: これはなんですか? 「男は恥ずかしく女は嬉しい読みもの」。これは0ロマンですね。

遠山: 簡単に言えばラブレターですね。初級・中級・上級とあるんですが、(紙を開いて)女の子の目の前でこうやって読むんですね。

高橋: なるほど。

遠山: これは中級なんですけど、こういうふうにところどころブランクになっているので、相手のいいところなんかをその場で考えながら手紙にしていくんです。これは意外に効果が高い気がしますよ。例えば、同僚の女性にこれを読むと、ドキっとしてもらえるとか。「あれ? なんかステキ」みたいな。

「男は恥ずかしく女は嬉しい読みもの」。これは中級

高橋: そうですよね。

遠山: 汗ダラダラになりながら読んでいる人もいますよ(笑)。

高橋: いいですか、拝見しても。

遠山: どうぞ。

高橋: あれ、これは名前しか入っていない。

遠山: これは上級ですね。要するに、書いてあるものを読む振りをして乗り切るわけです。読み終えてから相手に紙を渡すと「あ、白紙だった、じゃあ、全部あなたがその場で考えてくれたのね」と、なる。

高橋: いや、これは結構きついな。今、奥さんに対して読んでいるところを想像したけど、ちょっとぞっとする(笑)。奥さんだからかもしれないですけどね。

遠山: でも、奥さんにもなかなか今さら言えないこと、感謝とかを、こういうものを使って打ち明けるとかね。

高橋: 僕が結婚したきっかけを話してもいいですか? 僕は仕事ばかりしていて合コンにも行かないような20代を送っていたんですけど、1回ちょっと病気をして、そのときにすごい寂しくなっちゃって、一人じゃ生きていけないみたいな気持ちになって。そんなとき、知人が主催してくれた、いわゆる「出会いの会」みたいなものにちょっと意を決して行ってみたんです。そこで隣の席になった子と話して、2カ月後にプロポーズをしたんですけど。

遠山: わあー。

高橋: そのときは、勢いがちょっとあったんですよ。やっぱり、勢いって必要だなと思って。こういう演出とかがあるといいですよね。

■「誠実キャラ」が婚活パーティーの意外性

高橋: ところで、このお店ができたきっかけについて伺いたんですが。どうしてこういうお店を作ろうと思ったんですか? 

遠山: まず、デベロッパーさんからこの場所で店をやらないかという話があったんですよ。3年くらい前に。見に来たら、天井が高くてガード下という場所がユニークだと思って。普通の商業施設にはあり得ないような、場の持っているユニークさがあった。入り口から店までの通路が50mくらいあるんですが、この通路も面白いじゃないかと。そこはもともと貸すためのスペースじゃなかったようなんですが、通路も含めて貸してもらうことになったんです。

入り口から店舗まで、約50mの通路が続いている
パビリオンの店内

遠山: それと、われわれは「スープストックトーキョー」などをやってきまして、会社を人物に例えるなら、かなり「誠実キャラ」でずっとやってきたんですよね。

高橋: 誠実キャラ。それは遠山さんがというかスマイルズが?

遠山: スマイルズが。

高橋: 確かに、これまでの事業を見ると誠実という感じがしますね。

遠山: それで、この物件が出てきたのと同じ頃かな。「婚活」とか「出会い系」とかっていう話をよく聞くようになって。「ひょっとしたら、スープストックトーキョーをやっているスマイルズが、婚活パーティーや出会いの会をやったら、ありたがってもらえるんじゃないかな」と思ったんです。でも、当時は言葉が大事だと思っていたんですよ。婚活でも出会いでもない、次なるいい言葉が見つかれば、スマイルズでも何かできるんじゃないかと思っているうちに、2、3年くらいたっちゃったんです。そのうちに、「アートのあるレストランをやりたい」という構想も浮かんできて。

高橋: アート?

遠山: 美術関係者の人から「海外からお客さんを連れてきても、日本にはアートのあるレストランがない」という話を聞いたんですよ。例えば、ロンドンには「ザ・トラムシェッド」というレストランがあって、ダミアン・ハーストのすごく巨大な作品があるんです。私自身、アートが好きなので、ロンドンに行くとその店に行っちゃうみたいな感じがあるんですね。 5年くらい前からスマイルズが会社としてアートのコレクションを始めているので、作品もそれなりに手元にもあるし、アート作品が展示されているようなレストランをやるのもいいかなと。そう考えているうちに、レストランにアートがあるということを一つのきっかけにして、人と人が出会うような場所ができたら楽しいんじゃないかと思ったんです。それで、「LOVE」と「ART」がテーマのレストランにしようと。もう言葉を濁すんじゃなくて、むしろ、真っ正面から行ったほうが面白いんじゃないか。ラブと言い切っちゃうのも気持ちよくていいかなと。

高橋: なるほど。

店内にはアート作品が展示されている

遠山: レストランというと「何料理?」と聞かれます。イタリアンとか熟成肉とかそういう答えが普通なんだけれども、単純に「こういう料理です」と答えるのもちょっとシャクだなというか。何料理という質問に対して、肉じゃなくて、「ラブとアートです」みたいなそういう返しがいい。料理ももちろん大事で、実際には大きなオーブンに入れて窯焼きにした、希少な肉を出したり、かなりこだわっています。

高橋: 来店する人は、実際にラブというか恋愛を求めている人が多いんですか?

遠山: オープン前は、男女2人で来るイメージをしていました。でも、仲間同士で来店されるお客さまが多いですね。たまり場っぽいというか。カップルも来ますが、カウンター席も、2人でしっぽりできる席も少ないですし。私はもうほぼ毎日のようにいるんですけど、知り合いとかをくっつけたりするのが楽しいです。

高橋: 僕は、結婚している今だからこそ、こういうお店って面白そうに思える気がするんです。結婚前は、本当は出会いが欲しいと思っていても「ここに行ったら出会えるかもしれない」みたいな場所って逆に行きづらかったですね。

遠山: そういう方もいますよね。その場合は、アートを見るのを理由に来てもらえたら。

高橋: 仲間同士何人かで行って、別のグループの人たちと交流するのもいいですよね。

遠山: 今度、ここでラブ活というイベントをやります。昨日告知して、女性はもう、あっという間に埋まっちゃったんだけど、男子はまだ空いているので(笑)。別に独身じゃなくても、ユニークな方は大歓迎なので。

高橋: (笑)。ラブ活と言っても、ラブは人類愛くらいの愛ということですか、それは。

遠山: もちろん、本当に結婚がしたいのに出会いがないという人はすごくたくさんいるので、女性の枠はすぐ埋まっちゃいましたし、男性も結婚をしてない人のほうがありがたいと言えばありがたいけど……。でも、あまりにも狭くしすぎず、もう少し広く。例えば、LGBTも、もちろんオーケーみたいな、そういう感じにしたいと思っています。

高橋晋平
 1979年生まれ、秋田県出身。株式会社ウサギ社長。大手玩具メーカーに10年間勤務し、数多くのヒットアイデア玩具の商品開発に携わる。現在はアイデア・コークリエイターとして、さまざまな企業と新商品・新サービスの企画開発を行っている。

[日経トレンディネット 2017年5月1日付の記事を再構成]

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