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和菓子で酒を飲む 大福で日本酒、干菓子に焼酎ロック

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NIKKEI STYLE

先日若い人と飲んでいて気がついた。もう「左党」ということばは通じない。「辛党」はかろうじて通じるものの、辛い=唐辛子などのヒーヒーする辛さだと思っている人が多いため、うっかり「私、辛党なんだよね」と言おうもんなら「お!激辛派ですか」と、たちまち100倍カレーを愛する女のレッテルを貼られてしまう。

違う、そうじゃない。「私は酒飲みです」と言いたいだけなんだ。

辛党も左党も酒飲みのことをさす。思えば昔は、辛党と甘党は対立する概念だった。

酒好きはお菓子などは決して口にしてはならないし、目にしただけで「うへえ」と逃げ出すそぶりをしなくてはならない。一方、甘党の方も「甘いものが嫌いなのは、人生の楽しみの半分を知らないってことだ」などと辛党へのマウンティングに余念がない。「どちらも好き」という正直者のことは「両刀使い」と呼び、変わり者扱い。だがもはやそんな時代ではない。

酒も、お菓子も、好きなものは好き。それでいい。そもそも酒もお菓子も単なる嗜好品だ。そんなものはなくたって生きていける。

しかし有史以来、ヒトはいつの時代にも、そのとき手に入る材料と精一杯の知恵で「ちょっとしたお楽しみ」を作りあげてきた。ブラッシュアップし続けるそれらを愛しこそすれ、わざわざ遠ざけるのはもったいない。今はお酒に合わせるのが前提のお菓子だって、ちゃんと売られているのだ。

ということでオススメしたいのが、和菓子をつまみに飲むことである。

好きな人はとっくにご存知だろうが、和菓子はとても季節感を大事にする。デザインも季節ごとに春は野山の花を、秋は紅葉、夏はいかにも涼しげに、冬は暖かさをこれでもかと表現する。

今時分ならアジサイやホタル、もう少しすると七夕や金魚などをモチーフとした菓子が多く登場するだろう。

同じく酒飲みも季節感をとても大事にする。店先に「〇〇入荷しました」のお知らせを見ただけで、ふらふらと引き寄せられてしまうし、日替わりメニューに旬の食材を見つけては真っ先に頼む。季節感を大事にするもの同士が合わないわけはない。

ちょうど来週6月16日は「和菓子の日」。和菓子飲みを始めるのには、絶好のタイミングだ。

「菓子」は「果子」と書かれたこともあるように、もともとは野山の果物や草の実などが始まりだった。日本にはまだ砂糖はなく、菓子作りの技術もない時代。そこへ仏教と共に唐の菓子が入ってくる。さらに禅宗文化がまんじゅうや羊羹を伝え、キリシタン宣教師はカステラやコンペイトウなどの南蛮菓子をもたらした。外来文化とともにやってくる菓子を次々と日本人は受け入れ、手を加え、日本のものにしていった。

そう、和菓子と言いつつも、元はほとんど外からやってきたものだ。和菓子の歴史は、つまり菓子の輸入の歴史でもあったのだ。

長い歴史とともに発展してきたため、和菓子とひとくくりにするのはとても難しい。コンビニの売り場を見ただけでも、どら焼き、まんじゅう、お団子、ようかん、カステラ、求肥、くず餅、もなか…とキリがない。デパ地下や専門店の高度に発達した和菓子は日進月歩で種類を増やしているし、全国のご当地銘菓は星の数ほどある。

よく「和菓子なんて何を食べてもあんこでしょ」という人がいるが、とんでもない。細かいところに凝りまくる日本人の美意識が和菓子の世界でも発揮され、見た目も味も百花繚乱。使う豆、使う砂糖、炊き方、さらに最近はフルーツやクリーム、チョコレートなどとも組み合わされ「どれも同じあんこ」などとはとても言えない状況だ。

加えて和菓子作りに欠かせない米粉のバリエーションもすごい。

「もち米を水洗いし半乾きのものを粉砕、微粉にして乾燥した」羽二重粉、「蒸したもち米を餅にし、煎餅型に入れて白焼きにしてから粉末にしふるいにかけた」寒梅粉、「蒸したもち米を干し飯にして粉砕し粒子を揃え十分に乾燥させてから焼き色をつけないように焙煎した」上南粉など、試験に出たら不正解者がぞろぞろ出るひっかけ問題のよう。繊細な和菓子の美味の陰には、変態的とも言える日本人の凝り性があったのだ。

さあ何はともあれ、和菓子に酒を合わせてみよう。

イマドキのキレイめ和菓子には、シャンパンやカヴァなどの泡を合わせたい。見ているだけで気分がウキウキするし、インスタ映えも最高。飲む前にまず投稿したくなること請け合いだ。

もなかや落雁のように口中の水分を奪ってしまう系統は、ビールで潤いを補完しよう。茶道では抹茶をおいしくいただくために先にお菓子を食べ、口中の残響を感じながら抹茶をいただくという。口中の具合が次の飲み物を呼ぶという意味では、もなかとビールも道に外れていないのである。大いに口中の渇きを楽しもう。

大福などのもっちりしたものには、日本酒だ。私はご飯やおにぎりをつまみに酒を飲めるのだが、米に合うのはやはり米。ビールはともかく、ウイスキーやカンパリソーダでは米が死んでしまう。日本酒なら同じ米同士、お腹の中で話が弾みそうだ。求肥や白玉なども日本酒に合う。

サクッと、カリッと軽い干菓子には、あえてヘヴィーな芋焼酎のロックを。休日前の夜更け過ぎ、お腹はいっぱいだけどもう少し、YouTubeで好きな歌を聴きながら酒を飲みたいというときはこれだ。冷凍庫で凍らせたコンペイトウも出してきたなら、もう酒宴は終わらない。眠るタイミングを完全に逸してしまうパターンだ。

赤ワインの渋みを受け止めるのはどら焼きか、ようかん。いやいやラム酒との濃密な時間も捨てがたい。あんこを「小豆のジャム」と考えてみれば、西洋の酒と合うのも納得だ。次々とマリアージュを試してみたくなる。

静岡割りこと緑茶ハイなら、万能だ。お茶と和菓子が合わないわけがない。

どんな和菓子でも合うが、特にこれからの季節にオススメなのが、つるんと涼しげな寒天菓子と、キンと冷えた静岡割りの王道コンビ。うだる夏の日の午後、昼酒をキメたいときにはこれで決まりだろう。

さらにアレンジするのも手だ。表面に砂糖がついたものは、凍らせてシャリっとさせてみる。もちなどは焼いてみるのもいい。ようかんに乗せた数粒の塩が、酒の呼び水になることもある。とびきり甘い和菓子に、ジンやウォッカなどのとびきり切れる蒸留酒をショットでキュッとやるのもオツなものだ。

選択肢が多い方が、人生は楽しい。左党や辛党が死語となったのも、そんな垣根は取っ払ってしまえという意味なんだろう。

酒の肴に和菓子というチョイスも、10年後には当たり前のことになっているかもしれない。楽しみに待っていよう。

(食ライター じろまるいずみ)

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