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シェアリングエコノミーの時代、信頼が選択肢を増やす いまさら聞けないネットトピックス

2017/6/15

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 最近よく目にする「シェアリングエコノミー」。使わないモノや空いている設備、余った時間を、それを必要とする人にシェアするという考え方だが、「ITビジネスの原理」(NHK出版)の著者で、シェアリングエコノミー先進地帯でもある西海岸文化事情に詳しい尾原和啓さんによると、シェアリングエコノミーの時代を上手に過ごすキーワードは「信頼」だという。

■シェアリングエコノミー、5つの分野

 使わないモノや空いている設備、余った時間を、それを必要とする人にシェアするシェアリングエコノミーの中で、米国で特に注目されているのは、自家用車を持っている人が空いている時間をタクシーとして稼ぐことができる「Uber(ウーバー)」と、自分の家が空いているときに宿泊所としてほかの人に貸し出せる「Airbnb(エアビーアンドビー)」です。

 提供する側は自分の空いている時間や部屋をお金に気軽に変えることができ、利用する側は安く利用できるということで、一気に注目されました。

ハワイでGoogleマップを立ち上げると、交通手段のなかにUberが表示された

 ほかにも、シェアリングエコノミーでシェアできるものがあります。特に適しているのは遊休資産(=使っていない資産)や個人の空き時間など。大きく分けると、次の5つになります。

1 家や駐車場などの「場所」のシェア
2 車やライドシェアなどの「移動」のシェア
3 アウトドアグッズや衣服など「モノ」のシェア
4 翻訳やデザインなどのスキル、家事代行など「時間・スキル」のシェア
5 個人間融資や印刷機械などの「リソース」のシェア

 こういった遊休資産をシェアリングするために使われているのが、インターネットを介しての直接取引。スマートフォンを使えば、取引を迅速に行うことができます。「ウーバー」や「エアビーアンドビー」のような企業は、そのプラットフォームを貸し出しているのです。

■すでに日本でも始まっている

 シェアリングエコノミーは、すでに日本でも始まっています。

 ネット印刷「ラクスル」は、国内の印刷会社やデザイナーと提携し、印刷をあっせんしています。ラクスルに印刷を依頼すると、空き時間や空き機材がある印刷会社に印刷を発注し、刷り上げます。輪転機をシェアするという意味では、5の「リソースのシェア」になります。

 2016年6月に、月間の売り上げ100億円、年間で1500億円を達成した個人売買サービス「メルカリ」も、シェアリングエコノミーで成功した事例ともいえます。メルカリはフリーマーケットのユーザー同士が直接売買するサービスですが、流行やTPOによって服を変えたい人は、どんどん服を買い替えるため、着なくなった服はタンスの肥やしになってしまいます。しかし「メルカリ」を使えば、その服を必要としている別の人に提供することができます。つまり、購入代金からメルカリで売った代金を引いた金額が、実際に支払った金額になるため、衣料費が削減できます。メルカリのユーザーはメルカリで売ることを前提に購入しはじめているので、実質的にはシェアといえます。こういった経済のことを「循環経済」といって広義のシェアリングエコノミーとしてとらえられます。

 2016年の「日本再興戦略2016」の閣議決定で、日本でも本格的な「民泊」が始まりました。首相官邸サイトで公開された「日本再興戦略2016」には、「観光経営人材の育成・強化や宿泊業、通訳案内士等に関する古い規制の見直しによる観光産業の生産性向上等を図る。加えて、遊休資産等を有効に活用・共有する『シェアリングエコノミー』の推進にも資するよう、民泊サービスのルール整備等を行う」という記述があります。

 実際、日本でも民泊の利用者数が増えています。エアビーアンドビーの調査によると、日本の民泊に宿泊した人の数は、年間300万人(2016年11月調べ)。日本でも、シェアリングエコノミービジネスはすでに始まっていると考えてよいでしょう。

■直接取引にはリスクも。そこで重視されるのが……

 ただし、課題もあります。

 フランスのパリでは、それまで安く貸していたアパートを民泊として使う家主が増えました。これによって家賃が高騰し、低所得家族が住む場所を失う事態になったのです。

 フランス政府は「民泊の上限は年間150日」と規定したのですが、監視が適正に働かず、この制限が示唆する「民泊」の意味である「運用資産としてではなく、遊休資産として活用せよ」が機能しませんでした。

 日本でも、国土交通省と厚生労働省は、民泊の年間営業日数の上限を年間180日と決めましたが、同様のことがおきないための対応をどうしていくかが課題です。

 直接取引によるリスクについても、対策を考える必要があります。

 インターネットを介する取引だと、取引相手が信頼できるかどうかを決めるのは簡単ではありません。特に、車や家のように、利用者と提供者が同じ場所にいるケースでは、身の危険を伴う可能性もあります。

 そこで重視されるのが「信頼」です。

■「信頼」が増せば「選択肢」が増える

 多くのユーザーは、その指標としてサービスの提供者と利用者とが相互につけ合う評価(レビュー)を参考にしています。双方向でレビューし合うという仕組みをつくることで、いたずらや嫌がらせなど、「信頼」を担保できないレビューを減らすという効果も期待できます。

 民泊を例に、考えてみましょう。知らない土地で知らない家に泊まるのだから、信頼できる家を選びたいのは当たり前ですね。

 日本の民泊でもユニークな物件があります。主要駅から20分かかる家なのに、エアビーアンドビーでみると、ここについたレビューは200以上で、そのほとんどが星5つです。

 エアビーアンドビーのレビューを見ると、お母さんに対する感謝の言葉があふれています。海外からの客にとって、アットホームな雰囲気やお母さん手作りの和食は、日本文化に触れるプレミアムな体験。その体験を求めて、多くの客が訪れているようです。

 サービス提供側にとってもレビューの数は重要で、レビューが200を超えた時点で気構えが変わります。これまで積み上げてきた信頼を崩したくないという思いが、サービスのクオリティーを向上させるという意識につながっていくんです。

 エアビーアンドビーのレビューや評価は、利用者側にもつきます。個人的な経験から言わせてもらうと、レビューが20個を超えると、世界が変わります。貸す側の立場で考えてみればわかることですが、たとえどんなに大金を支払おうと、レビューの数が少ない、あるいはレビューの評価が低い利用者には、部屋の中に芸術作品があるような部屋は貸したくない。貸すなら、レビューの数が多く、評価が高い利用者に貸したいと考えるのは自然でしょう。

 信頼が増せば、自由の選択肢が増えるという時代になってきているのです。

■信頼を積み重ねることで大きな恩恵が

 シェアリングエコノミーで得られないのは、「所有している」という満足感。しかし、これさえ諦めれば、低コストで住みたい場所に住み、乗りたい車に乗れるようになります。

 例えば、僕の知人に、バリとシンガポールに1軒ずつ家を借りている人がいて、気分次第で住みたい方の家に住んでいます。そのとき、自分が使っていない方の家を誰かに貸し出して、家賃分の部屋代を稼ぎます。だから、実際に支払うのは1軒分の家賃のみ。

 ほかの国に旅行に行きたいときは、両方の家を貸し出せば、1軒分の家賃だけでなく、旅行費用も捻出できます。この仕組みを作ったおかげで、彼はいつも自分が住みたい場所に住めるんです。

 こういった生活をしたいと思ったら、これまでは大金が必要でした。しかし、シェアリングエコノミーを使えば、それほど頑張らなくてもできるようになりました。つまり、選択肢が広がったんです。

 その恩恵にあずかるためには、コツコツと信頼を積み重ね、いいレビューを増やすこと。これからは、信頼・親愛・共感がキーワードになると思います。

尾原和啓
 シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector。京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立ち上げ・投資を歴任。現在13職目、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に「ITビジネスの原理」(NHK出版)。

(構成 井上真花=マイカ)

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