それじゃ火に油! 日本人が避けるべき3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(29)怒りをなだめる
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回は怒りをみせる顧客に応対する場面です。
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The customer is always right.「お客様はいつも正しい」は、日本で言えば「お客様は神様です」。その言葉が示すように、たまにお客様は理不尽と思えるクレームをつけることもあります。また「そうおっしゃるのはご無理ごもっとも」という意見を言うこともあります。どちらのケースにせよ、怒りに対応するのはビジネスで越えなければならないひとつのハードルになります。
What's going on here! I can't believe this! いったいどうなっているんだ!こんなこと信じられない!
正しい訳:落ち着いてください。
影の意味:お前、落ち着けよ。
「命令文」に2つの顔があります。Have a nice weekend! 「よい週末を!」のように相手によいこと、楽しいことを言うときの命令文はOKです。でも、通常このような場合に命令文を使えば、火に油を注ぐことになります。Stay calm. Don't get angry. なども同じ。命令文を使う場合は状況に応じる必要があります。
正しい訳:なぜ怒っているのですか?
影の意味:どうしてそこまで怒ちゃっているの?
why は「なぜ」という理由を尋ねる疑問詞で、特に問題ないように見えますが、実はWhy are you …? のようにwhy を先頭に持ってくると「どうしてそうなっちゃうの?」というニュアンスになってしまいます。相手は「この人、私の気持ちをちっとも分かってくれないんだ」と思う可能性があります。
正しい訳:大丈夫ですよ。
影の意味:大げさだなあ。
a big deal は「一大事/重要なこと」などの意味。「そんな一大事なないですよ。大丈夫ですよ」のひと言の影の意味は「そんなこと、ちっとも大したことじゃないよ。大げさだなあ」ということになります。
これなら「影の意味」はない!
お腹立ちの理由は理解しています。
相手が腹を立てている場面では、最初から相手の怒りなどを否定したり、こちらの立場を主張したりすることは、対応としては失格です。100パーセント同調なり賛成ができなくてもまず理解を示すことから始めましょう。
あなたが怒るのは当然のことです。
直訳すれば「あなたは怒るすべての権利を持っている(だから怒っても仕方ないですね)」。
何かできることはありますか?
相手の怒りを受け止めて、さらに先へ進もうとする姿勢が見えます。相手はここでいったん怒りを収めて、冷静になるでしょう。
あなたが知らない本当の使い方―― calm
・ I tried to calm him down. 私は彼を落ち着かせようとしました(でもだめでした)。
*calm … down: ~を落ち着かせる
calm:落ち着かせる、なだめる(他動詞)
try to …:~しようとする/試みる tried to … (過去形):~しようとした(がだめだった)
・No matter what happens, we need to stay calm. たとえ何が起きようとも、冷静でいなければなりません。
* stay calm: 冷静でいる、平常心でいる 静かな、穏やかな(形容詞)
・She's always cool, calm and collected. 彼女はいつも冷静で穏やかで落ち着いています。
*collected: 冷静な、落ち着いた
・He has a calming effect on the office. 彼にはオフィスでみんなの心を落ち着かせる効果があります。
*calming effect: 心を落ち着かせる効果、沈静効果
・We need to calmly discuss this issue. 落ち着いてこの件を話し合う必要があります。
*calmly: 落ち着いて、冷静に(副詞)
・If you can't handle this situation calmly, you need to resign. 冷静にこの事態に対処できないなら、辞職しなければなりません。
*handle a situation calmly: 冷静に事態に対処する calmly: 副詞
・I need something to calm an upset stomach. 胃のむかつきを抑えるものが必要です。
*calm: 抑える、鎮める an upset stomach: 腹痛、胃のむかつき
・I don't think he's capable of calm judgement. 彼に冷静な判断ができるとは思いません。
*calm judgment: 冷静な判断 capable of …: ~ができる、~の能力がある
calmには「冷静な、穏やかな」以外にも「静かな」の意味があります。「静かな」とひと言で言っても、英語には実に多くの「静かな」があります。その代表的なものがsilent, quiet, still です。Sound of Silenceという歌が流行りましたが、これは「沈黙の声」の意味になります。silenceの形容詞silent には「沈黙の」の意味があり、音がいっさい聞こえない「無音の状態」を表します。窓の外には深々と雪が降り積もり、通りには人っ子ひとりいません。そのような街はsilentということになります。
廊下で騒ぐ子供がうるさい。「静かにしなさい!」と言うときはBe quiet. になります。silentの「無音」ではなくquiet は「あまり音も立てない静かな(状態)」を言います。
「静かな」の意味で使われるcalm は「街」などが「穏やかな、落ち着いている」の意味になります。「嵐の前の静けさ」は calm before the storm。「嵐」と対極にある「静けさ」の意味であることが分かります。
「静かな」の意味で使われるstill は「(静止した)静かな」の意味になります。川の水が流れずに留まっている場合にはstill water。 「静かな流れは底が深い」はStill water runs deep. と言いますが、これは「浅瀬や浅い川はピシャピシャ、パチャパチャと音を立てて流れるが、深く流れていく川は音も立てずに静かに流れる」の意味になります。「深く考える人はあまり口をきかない」のように人間にたとえられることわざでもあります。
また「静物画」などの「静物」は動かないもの、すなわち still life、「静物画」ならstill-life painting となります。
単語、フレーズをひとつ勉強すると、このように必ず広がりがあります。どうせ学ぶ機会であるなら、ひとつずつ発展させて、間口を広げて vocabulary を増強させましょう。
Have a nice day!
:D セイン
※デイビッド・セインの「ビジネス英語・今日の一場面」は木曜更新です。次回は6月1日の予定です。
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。