国の少子化対策、本気度足りず 目標に程遠い出生率
ダイバーシティ進化論(出口治明)
総務省が毎年こどもの日にちなんで発表する4月1日現在の子どもの数(15歳未満人口)は、前年に比べ17万人少ない1571万人で過去最少となった。日本の未来を担う子どもの数は、36年連続で減り続けている。女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.46(2015年)。国が掲げる希望出生率1.80に遠く及ばない。
出生率を上げるには何をなすべきか。参考になるのが、先駆者フランスの取り組みだ。1990年代、当時の大統領が打ち出した「シラク3原則」は、子どもを持つことで新たな経済的負担が生じないよう給付を増やす、原則無料の保育支援を提供する、女性の育休期間は勤務していたものとみなす(評価を下げない)というもの。
これらを法制化し、婚外子を差別しないPACS(民事連帯契約)も導入。女性が結婚・出産の形を自由に選択でき、仕事との両立も可能な環境を整えた。結果、94年から10年余りで出生率は1.66から2.0前後まで上がった。
フランスは子育て予算に国内総生産(GDP)の約3%を投じているのに対し日本は1.5%程度。待機児童など予算を投じて解決すべき課題がたくさんあるにもかかわらず、その水準は欧州の先進国に比べ圧倒的に低い。
婚姻の在り方も少子化の一因だ。日本人女性の平均初婚年齢(2015年)は29.4歳、第1子出産年齢は30.7歳。しかしフランスやスウェーデンなど欧州では、第1子出産が28~29歳で初婚年齢は30代。つまり、一緒に暮らし、子どもができたら結婚するというのが自然な流れ。日本のように結婚しないで出産することに負い目を感じる必要がないのだ。日本では婚外子はわずか2%だが、欧米では4~5割に達する国も少なくない。
国連から3度の是正勧告を受けている夫婦同姓は日本の婚姻のゆがみの象徴だ。「夫婦別姓は日本の伝統的な家族制度を壊す」という人もいるが、源頼朝の妻は平(北条)政子。日本の伝統はむしろ夫婦別姓であり、夫婦同姓や女性は家を守るものといった「伝統的家族観」は明治以降につくられた虚構にすぎない。
歴史的な事実と世界の状況。2つの軸から日本の少子化対策を点検すると、問題の本質が見えてくる。それは、少子化問題に対する政府の本気度がまだ決定的に足りないということだ。
ライフネット生命会長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を開業し社長に就任。13年から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2017年5月22日]
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