竹原ピストル しゃがれ声、無骨にメッセージ弾き語り
パンチのあるメッセージをギターの弾き語りに乗せ、しゃがれた声で歌い上げるシンガーソングライターの竹原ピストル。2003年にフォークデュオ野狐禅(やこぜん)としてデビューするも、09年に解散。所属事務所のオフィスオーガスタを離れ、「ライブをやりまくれば、いつかは誰かが見つけてくれる」という信念のもと、ソロ活動を続け、いま、注目されつつある。
当初は全国のライブハウスを回りながら1年に約250本ものライブを行う生活を続けるも、なかなかヒットには恵まれなかった。
「当時は誰でもいいから見つけてくれ!という心境になっていた」と話す竹原に11年、転機が訪れる。野狐禅時代からファンを公言していた松本人志が、監督作『さや侍』のエンディング曲と出演者に竹原を抜てき。1人だけの活動に限界を感じ始めた頃に映画の影響でライブ動員数が増えたことで、活動の方向性を見直したという。「売れるためにはもう一度元の事務所で、マネジャーなどのスタッフとともにチームで動いていくしかないと感じ、戻らせて下さいとお願いしました」。
そして14年にビクターから再デビュー。前作のアルバムに収録された若者への応援歌『よー、そこの若いの』は、住友生命「1UP(ワンアップ)」のCM曲となり、竹原の楽曲が幅広く知られるきっかけとなった。
3rdアルバムとなる今作は、曲の作り方を大きく変えたという。竹原が弾き語りで曲のベースを作るのは今まで通りだが、ディレクターと話し合いながら、サウンドアレンジにまで深く関わった。「あの頃の君にあって/Forever Young/今の君にないものなんてないさ」と歌う『Forever Young』では、音のイメージをうまく言葉にできなかったため、部屋で竹原が寂しくポツンと座っている絵を描いてディレクターに渡したそうだ。「絵を見ながら話し合い、孤独感を表現するため、自宅で1人で宅録したようなノイズ入りのざらついたサウンドにしようと決まりました」。
『ため息さかさにくわえて風来坊』では、多重録音できるスマホアプリの「GarageBand(ガレージバンド)」を活用。ドラムに見立てて、ソファーを手で叩いたり、鉛筆で階段を叩いた音を録音したものをディレクターと共有し、怪しげに聴こえる足踏みの音を入れようとなったそうだ。
今作の取り組みを通し、「アレンジをしっかり練ることで、いつかは説明しすぎないシンプルな歌詞でも、より深いメッセージとして伝わるような曲を作ってみたい」と強く感じたという。
不器用ながらも何事にも真っすぐ取り組んできた彼だけに、今後も試行錯誤を繰り返しながら、聴いた人の心を震わせる名曲を生み出していくだろう。
(日経エンタテインメント!」5月号の記事を再構成。敬称略、文/中桐基善 写真/藤本和史)
[日経MJ2017年5月19日付]
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