働き方・学び方

若手リーダーに贈る教科書

「問題企業」は決算で分かる 見抜く法、教えます 長谷川正人著 「ヤバい決算書」

2017/5/20

 国内で1日に刊行される新刊書籍は約300冊にのぼる。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。書籍づくりの第一線に立つ日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は「ヤバい決算書」。経営不振に陥ったり、決算の粉飾が明らかになったりした問題企業の実際の決算書をみながら、異変を見抜く方法や企業の将来を占うポイントをわかりやすく解説しています。

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長谷川正人氏

 著者の長谷川正人さんは、1958年東京生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、大手コンサルティング会社に入りました。現在は上席コンサルタントを務め、会計や財務に関わる研修や講演の経験も豊富です。著書に「『強い会社』はセグメント情報で見抜きなさい」などがあります。

■東芝とオリンパス、どこが違う?

 ここ数年、シャープや東芝など多くの一流企業の経営不振が明らかになり、企業の決算や情報開示への信頼感が揺らいでいます。本書では、企業の実際の決算書をもとに、こうした問題企業の業績や資産・負債などの数字がどう変化したのかを追います。さらに新聞記事などから当時の関係者の発言を拾い、各社のケースについて掘り下げ、比べながら分析しています。

 例えば、2011年に粉飾決算が明らかになったオリンパスと15年に発覚した東芝のケースはどうでしょう。オリンパスの経営再建は一応の軌道に乗っているようですが、東芝はなお揺れています。米国での原子力事業をめぐって巨額損失のリスクが顕在化するなか、稼ぎ頭である半導体事業の売却はすんなり決まらず、不透明な状況が続いています。

 オリンパスが他の粉飾決算発覚企業と異なり、上場廃止や会社解体などに追い込まれず、当時自らも経営不振状態にあったソニーがオリンパスに500億円もの出資を決めた最大の理由は、オリンパスが粉飾の混乱があっても揺るぎのない優良事業をもっていたことにありました。
 カメラ事業ではなく医療事業、具体的には世界シェア70%をもつ内視鏡事業が会社の収益の大きな柱であったことがオリンパスを救いました。
(第4章 こうして決算書は嘘をつく――粉飾にだまされるな! 東芝 VS. オリンパス 146ページ)

 決算書をみると、オリンパスへの信頼が揺らぐ事態になっても内視鏡を中心とする医療事業は順調で、デジタルカメラ事業などの赤字を補って余りあるほど収益に貢献をしていたことが明らかです。圧倒的なシェアを持っていただけに、医療機関や企業が他社商品に切り替えるのも簡単ではありませんでした。

■自動車メーカーの「不正」はどう響いたか

 「排ガス不正」に揺れたドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループと「燃費不正」の三菱自動車の比較も読みどころです。

 2015年9月18日、米当局がフォルクスワーゲンのディーゼル車48万台に排ガス規制を逃れるための不正ソフトが用いられていたことを発表しました。(中略)
 その7カ月後の2016年4月20日、三菱自動車の相川哲郎社長(当時)が緊急会見で、同社の軽自動車62万台(自社ブランドeKワゴンに加え、日産自動車に供給するDAYSの各車種)で燃費を実際よりよく見せる不正が意図的に行われていたことを発表しました。
(第5章 企業のリスク、ここで読み解く! ソフトバンク VS. サントリー/フォルクスワーゲン VS. 三菱自動車 188ページ)

 VWグループは、不正が発覚した2015年12月期は赤字に転落したものの、翌16年12月期には黒字に復帰しました。排ガス不正の業績への影響は、なぜ比較的小さかったのでしょう。

 決算情報の一部として公表されているブランド別、地域別の販売を示す「セグメント情報」をみると、グループのブランドはVWだけでなく、高級車で有名なアウディやポルシェなど12種類もあることが分かります。さらに詳しくみると、グループの利益の7割を稼ぐアウディとポルシェがブランド不信の影響を免れていたことが読み取れるのです。

 一方、三菱自動車の場合、事件後に日本での販売は激減し、損失が拡大しました。日産自動車による34%(2373億円)の出資が完了し、財務的には窮地を脱したかに見えますが、今後をどうみればいいのでしょう。決算書から読めるポイントとして、筆者は「ASEAN(東南アジア諸国連合)で台数・利益をしっかり稼いだうえで、国内での燃費不正による出血をどう収束させるか、それに加えて筆頭株主となった日産との協業がどのように進むか」と分析します。

■決算を読んでリスクをつかめ

 投資家など外部の利害関係者としてできることは、不正が発覚した際にはどれくらいの損失が予想されるのか、それが現時点の自己資本や現金残高に対してどの程度の大きさになりそうか(大きければ経営が揺らぐ可能性、小さければそれほどの打撃にならない)を予想して、次の行動(保有株を売却するかどうか等)を決めることです。
(第4章 こうして決算書は嘘をつく――粉飾にだまされるな! 東芝 VS. オリンパス 153ページ)

 「決算書」と聞くと、身構えてしまう人も多いかもしれませんが、本書は「財務3表の関係」といった初歩的な内容もコラムで解説しています。この本で決算を読み解くスキルを身につければ、企業の異変を察知できるかもしれません。投資家だけでなく、ビジネスパーソンの必須知識として読んでおきたい一冊です。

◆編集者からひとこと 雨宮百子

 長谷川さんと初めてお会いしたとき、数字は苦手でした。もちろん「決算書」の読み方も分かりませんでしたが、構成や内容を議論する中で、徐々にその面白さを学びました。決算書の読み方や目のつけどころがわかると、ニュースの理解にも深みが出てきます。

 長谷川さんは、本書で取り扱った企業の商品を買い、サービスを利用してみたそうです。任天堂のゲームとつながるフィギュア「amiibo(アミーボ)」やサントリーのミニボトルなどです。フォルクスワーゲンの車はミニカーだったそうですが……。企業への愛と探求心が感じられました。

 取引先を開拓したり、転職を考えたり、企業を選ぶ場面は色々あります。その選択の軸に決算書の解読を入れることをおすすめします。生涯役に立つ知識を学べる一冊です。

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

ヤバい決算書

著者 : 長谷川 正人
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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