中学ソフトボール部の女子マネジャー 愛の唐揚げ弁当
立川笑二
師匠と兄弟子の吉笑とともにリレー形式で連載させていただいている、まくら投げ企画。22周目。今回の師匠からのお題は「お弁当」。
私自身には「お弁当」にまつわるエピソードはないのだが、知り合いの女性から聞いたお弁当に関する甘酸っぱいエピソードがある。
今回はその女性から聞いたお話。22投目!えいっ!
女性の名前はヒナコさん(仮名)。ヒナコさんには中学生の頃に好きな人がいた。
好きな人の名前はマサルくん(仮名)。
ヒナコさんはマサルくんに近づくために、マサルくんが所属していた男子ソフトボール部のマネジャーになった。
その中学校の男子ソフトボール部では、部員たちのために休日の練習の際の昼のお弁当をマネジャーが作るという伝統があり、その忙しさから同級生のマネジャーがどんどん辞めていく中、ヒナコさんは同学年では唯一となりながらも部員達のために尽くす日々を送っていた。
特に、マサルくんが大好物だったから揚げは、毎回、意識的に弁当に入れるようにしていたそうで、ほかの部員から「練習の間にから揚げはきつい」と意見がでても、「限られた部活動費の中から大量に作るのにはから揚げが適している」と言い、弁当に入れていたという。
告白こそできなかったが、ほかの部員が残すから揚げを「おいしい、おいしい」と食べるマサルくんを見るだけで、ヒナコさんは満足していたそうだ。
そんなこんなで3年生になって迎えた最後の夏の大会。
マサルくんはチームのキャプテンになっていて、チームは決勝戦まで勝ち進み、学校史上初の地区大会突破に期待がかかっていたが、決勝戦の相手は全国大会常連の地元の強豪校で、力及ばず負けてしまったという。
試合後、泣いているヒナコさんはマサルくんから
「3年間ありがとう。ヒナコのおかげで決勝までいけてよかったよ。俺、高校でもソフトボール続けて、次は絶対全国大会行くから」
と言われ、ヒナコさんが
「私も同じ高校に進学して、またマネジャーをやる!」
と答えると、真剣な顔で
「それだけはやめてほしい」
と言われてしまった。
「進学先の高校の男子ソフトボール部も、休日はマネジャーが部員の弁当を作らなくてはいけないから」だと。
から揚げを笑顔で食べて「おいしい」と言っていたのは、彼の優しさであり、本心ではなかったのか。
そう思うとさらに泣けてきたヒナコさんに、マサルくんが続けていった言葉が
「これからは、俺のためだけに弁当を作ってほしい」
かくして、ヒナコさんの思いは届きマサルさんと付き合うこととなり、同じ高校に進学。ヒナコさんは女子ソフトボール部のマネジャーとなり、平日はマサルくんのためだけにお弁当を作るようになったという。
ちなみに、このエピソードに出てくるヒナコさん(仮名)という女性は、かれこれ10年以上付き合っている、私の彼女だ。
ただ、このエピソードのマサル君(仮名)は、私ではない。これは、ヒナコさんの元彼とのエピソードだ。
「弁当にまつわる話はなにかないか?」
と聞くと、この話をしてくれた。
私は今、とてつもなくむなしい気持ちでこの原稿をかいている。
(次回5月28日は立川吉笑さんの予定です)
1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子は「てぃんさぐぬ花」。立川談笑一門会のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。