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ぼくらのリアル相続

「私が死んだら全部売って現金で分けなさい」が一番 税理士 内藤 克

2017/5/19

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「先生こんにちは。最近、金融機関が主催する相続セミナーに出席してきましたよ」
「そうですか。割と当たり前の話だったでしょう?」
「遺言を書いとかないと大変なことになるって脅かされました」
「その通りではあるんですが、書いていてももめる時はもめますからね」
「もういっそのこと、『私が死んだら全財産を処分して現金で分けてくれ』っていう遺言を書きたいくらいです」
「それはいい考えですね。実際、可能ですよ」

 相続は財産をもらう側も気になりますが、財産を残す側にとっても心配の種がつきません。「残す財産によっては不公平感が募り、仲のいい子供たちが相続をきっかけに不仲になるのではないか」と悩む親は多いでしょう。もしかしたら節税よりも、分割トラブルを回避することの方が重要な場合もあるかもしれません。特に、相続税対策を意識しすぎて財産構成が「借入金と不動産だらけ」になってしまった場合は、不公平にならないような分割を行うのが難しくなってきます。

■分割前に売却できるのか?

 分割協議が終了して不動産を取得した相続人が、納税資金捻出のために自分の判断でその不動産を売却して納税するのはよくある話ですが、「分割が調わないので売却してから分割する」というケースもあります。これを換価分割(かんかぶんかつ)といいます。

 以前、弁護士から紹介された相続案件で「話し合いがつかないから遺産分割未了のまま売却して、現金化して分けます」と長男のAさんから連絡をもらったことがありました。しかしそもそも分割前(相続登記前)に売却できるのか? つまり被相続人の名義のまま売却してしまうのか?

 司法書士にその点を確認したら「それはできない」という回答でした。そこで再度弁護士に確認すると、「とりあえずAさん名義で相続登記してその不動産を売却したのち、代金をAさんと弟のBさんが等分で分ける」ということでした。この場合、譲渡の申告はどうなるのでしょう。

 例えばAさんが相続したあと自分の意思で売却するのであれば、譲渡所得税はAさんが申告納付して終わりです。ただAさん・Bさんで分割するのが前提でとりあえずAさんが相続したのちに譲渡した場合は、Aさん名義での譲渡でもAさんとBさんが2分の1ずつ譲渡したとみなして、それぞれが申告をすることになります。この場合、遺産分割協議書に「換価分割である旨」を記載しておかないと、Aさんが相続したのちに譲渡し、その代金をBさんに贈与したという扱いになり、相続税と贈与税がかかることになるので注意が必要です。ちなみにこの例の場合、Bさんが被相続人と同居していたら、譲渡所得の計算時に「居住用財産の3000万円控除」も使えることになります。

■経済合理性よりも「まず反対」!?

 先のケースのように「譲渡(売却)してから分割しよう」というところまでこぎ着ければまだいいのですが、そこまで至らないケースもあります。相続人のうちの一人が譲渡に反対している場合です。

 将来値上がりしそうだとか利回りがいいのでもったいない、という理由での反対ならまだわかりますが、思い出があるとか先祖に申し訳ないといった理由ですと、説得に時間がかかります。人間というのはおかしな生き物で、特に、憎みあうと経済合理性よりも「とにかく相手のやること、なすことを全否定したい」という場合もあります。このように分割に向けた前向きな議論ができないことが予想される場合には、冒頭の話ではないですが、やはり遺言が必要になってきます。

 ですので、もしあなたが「もめない相続」を第一に考えるのであれば、「私に相続が発生したら、全部売却してみんなで分けてください。株も不動産も何もかも全部ね」と宣言してしまえば楽になります。こういうやり方であれば節税対策として不動産を購入していても、分割の時に少しは楽になります。現金で分けられれば、その後相続人が自分の好きな不動産を買うのも自由なのですから。

内藤克
 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。

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