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女性ピン芸人が大活躍 お笑いにもダイバーシティー?

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NIKKEI STYLE

ゴールデンウイークも終わり、お盆の夏休みまであと3カ月あるなぁ……と、ネジを巻き直して仕事に取り組んでいるビジネスパーソンも多いかと思います。

私もちょうど今、ギアチェンジをしているところですが、走り続けるためにはストレスを解消するリフレッシュタイムが必要です。

私にとってのリフレッシュタイムは、お笑い番組を見る時間です。最近、お笑い番組を見ていて気づくのは、女性ピン芸人たちが頑張っているなぁということ。

ブルゾンちえみさんの細やかな気遣い

今年一気にブレークしたブルゾンちえみさんを筆頭に、平野ノラさん、ゆりやんレトリィバァさん、横澤夏子さんなど。トークバラエティー番組のひな壇といわれる位置に、一人は女性ピン芸人が座っていることが多くなってきました。

特にブルゾンさんの場合はテレビで見ない日はないのでは?というくらいブレークしています。「ブルゾンちえみ with B」として演じているキャリアウーマンのネタが、ブリリアンというイケメンお笑いコンビを従えていることから、様々な番組で「with B」の場所に他のお笑い芸人、場合によっては番組の告知で出演している俳優やジャニーズのタレントまでもが加わるスタイルが成立し、同じネタでも多様に演じられることが視聴者を飽きさせない理由になっているように感じます。

その一例が、ブルゾンさんが日本テレビの特番『DASHでイッテQ!行列のできるしゃべくり 日テレ系人気番組No.1決定戦2017春』に出演した時のことです。NEWSの小山慶一郎さん、Hey!Say!JUMPの中島裕翔さんと共に「ブルゾンちえみWith J」としてネタを披露し、喝采を浴びました。しかも、ブルゾンさんが本来、男性に腰かけて「35億!」のセリフを決めるところ、2人に気を使って腰をかけずに体を少し浮かせてフィニッシュしたことから、多くの女性ジャニーズファンからネット上で「さすがデキる女だ。ファンへの気遣いがある」と称賛されていました。

ブルゾンさんの人気の理由の一つに、キャリアウーマンネタで強い女のキャラを演じながらも、こうして端々ににじみ出る女性らしい繊細さが視聴者に伝わっていることにあると思います。

2017年2月に開催されたピン芸人日本一を決める『R-1ぐらんぷり2017』の決勝戦で、ブルゾンさんは1回戦でネタをとばしてしまい、CM明けでは涙目に。その時もネット上では「素直でかわいらしい」「まだまだこれから!」「この真面目さに好感が持てる」など、ブルゾンさんをフォローするコメントであふれていました。ブルゾンさんに好印象を持っている視聴者が多いことを感じます。

女性らしさを生かして笑いに

お笑いの世界は元来、男性が中心であり、一昔前までは女性芸人が女性っぽさを出すこと自体がタブーとされる風潮がありました。

これまでのお笑い文化の変遷をたどると、人気のある女性芸人は自身の容姿を自虐したり、顔芸や滑稽な姿をさらけ出したりすることを笑いに変え、いってみれば、男性化することで笑いをとる傾向にあったといえます。

それが今回の「R-1ぐらんぷり」でブルゾンさんをはじめ、決勝に進出した女性芸人5人の顔ぶれ(ブルゾンちえみ、ゆりやんレトリィバァ、横澤夏子、石出奈々子、紺野ぶるま)を見ると、いずれも体を張ってどれだけ男芸人に近づくことができるかという芸ではなく、独特の世界観の中にいる女性や、マイペースであったり自意識過剰であったりする女性そのものを扱ったネタが多いことに気付きます。しかも皆が芸歴の浅いアラサー女子なのです。

こうした芸風の先駆者として思い浮かぶのが友近さんと柳原可奈子さんの存在です。友近さんがなりきる「演歌歌手の水谷千重子」や「高知よさこいテレビの女子アナ・吉原多香子」「新婦の友人」。柳原さんが演じる「ブログママ」「女性ショップ店員」などは男感ゼロ、女性っぽさありありのネタで爆笑をとってきました。

コントで取り上げるのは、微妙な違和感を周囲に与えるタイプの女性たちばかり。友近さんや柳原さんは、女性たちや、場合によっては男性たちも日ごろ感じている残念なタイプの女性たちを取り上げることで、共感を得るキャラクターネタを作り上げてきました。女性が女性を客観視して笑いにつなげる芸風です。

同じようにブルゾンさんの「キャリアウーマン」ネタも、「今どき、自分で自分をキャリアウーマンって言っちゃうのってなんか……(笑)!」というおかしさの共感につながっているように思います。

女性のハンデを跳ね返す

かつて、松本人志さんは著書『遺書』(1994年)のなかで「お笑いは自分の全てをさらけ出さなくてはならないが、女は身も心も素っ裸になることができない。だから女は笑いに向かない」というメッセージを伝えていました。

笑いを取るためには下着姿になったり、時にはお尻を見せることもいとわない、体を張る男性芸人のようなことを女性芸人はなかなかできません。そういう意味では、女性芸人は最初からハンデを負っているのかもしれません。

ただ、女性が女性を客観視して笑いにつなげる芸風がいまのテレビ業界向けであることから、そのハンデもだんだんと小さくなってきていると思います。芸人の方々の活躍の場はネタ番組から様々な情報・バラエティー番組に広がり、アドリブ力やコメント力が求められるようになりました。

デビュー2年目ながらも堂々たる存在感を示すブルゾンちえみさんを筆頭に、平野ノラさん、横澤夏子さん、ゆりやんレトリィバァさんなど、まだ芸歴の浅い20代~30代の女性ピン芸人であっても、番組では先輩芸人たちの前で臆することなくコメントし、しっかりとしたアドリブ力を発揮しています。女性向けの情報番組では、ロケや食レポなどを器用にこなすこともできます。

私は女性芸人の活躍の場が広がるこの現象をひそかに「お笑い界のダイバーシティー(人材の多様性)」と呼んでいます。女性らしくメークも決めた女性芸人が女性らしく活躍する時代を迎えているのです。大島美幸さん、くわばたりえさん、松嶋尚美さんのように、出産後も子育てをしながら活動を続ける例も増えてきました。お笑いの世界においても企業社会同様に「女性活躍推進」が進化していくことを望んでやみません。

エンターテインメントの世界において、声高に男女平等を叫ぶ必要はないと思いますが、女性性を封印しない女芸人の活躍の場が広がれば、お笑い業界の裾野も拡がり、新たなお笑い芸のイノベーションにもつながるのではないでしょうか。お笑い好きの一人として、ますます期待が高まってきています。

鈴木ともみ
 経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。

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