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運用業界も学べ 日本酒メーカーの変革力(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2017/5/16

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「日本酒業界に起きた構造変化は、今後の資産運用業界でも当てはまる問題だ」

 日本証券アナリスト協会が先月開催したセミナーで金融庁の森信親長官が講演したのですが、その内容が資産運用業界でかなりの話題となりました。現状の業界の構造的な問題点を赤裸々に指摘していたからです。

 そこで今回は資産運用業界についての話をしたいと思います。これは個人投資家の皆さんにもぜひ知っておいていただきたいことです。

 まず、日本酒業界の話をしましょう。いきなり何だ、と思われるかもしれませんが、資産運用業界のこれからを考える上で、実は日本酒業界のことが大いに参考になるのです。それは新潟県のメーカー、菊水酒造の経営者の方と話をしたときに確信したことです。

■日本酒業界と資産運用業界の共通点

 日本酒の国内消費は1975年度をピークにおおむね減少傾向にあります。少し前は老舗メーカーの倒産も相次ぎました。1週間に2回以上日本酒を飲む人、すなわち日本酒業界の上顧客はほとんどが60歳以上です。高齢化に加えて、若者の日本酒離れも進みました。

 ところが、多くの日本酒メーカーの経営者は抜本的な対策を取りませんでした。目先の利益を確保しようと、上顧客である60歳代以上にウケる味わいにして、ネーミングやパッケージデザインも彼らが好むものにしました。そこに顧客がいるからです。

 その結果が日本酒市場の縮小でした。上顧客である60歳代以上の人たちは先細りが避けられません。当然、新しく60歳代になる人はいますが、50歳代だった人たちが60歳代になったら急に日本酒を飲むようになるかというと、そうではないのです。彼らが飲むのはビールや発泡酒や焼酎、ワインだからです。シニア世代の趣味嗜好は、その人が若者だったときの趣味嗜好をほとんどそのまま引っ張っていくものです。

 これは今後の日本の資産運用業界でも、そのまま当てはまる問題だと思いました。現状ではまだ、金融機関は日本酒メーカーのように破綻していません。というのも、団塊の世代の存在があるからです。辛うじて団塊の世代までは「お金のことで困ったら証券会社や銀行の窓口に行って相談する」という習慣が残っていました。

 そのため、団塊の世代が一斉に退職すると莫大な退職金が金融機関に流れ込み、彼らが金融商品を購入する手数料で大きな利益を上げることができました。ですが、あと10年後に資産運用業界にも日本酒業界と同じことが起きないと誰が言い切れるでしょうか。

 今の50歳代の多くはお金のことで困っても大手金融機関の窓口には行かず、まずはインターネットで調べるでしょう。金融商品を購入するにしてもネット経由のほうが便利だし、コストが安いことを知っています。彼らが10年後、60歳になったからといって突然に窓口を訪ねるようにはならないでしょう。そうなると、こうした流れへの対応が遅れた地方の金融機関などは、リストラを免れることができなくなります。

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