宇宙から見た夜の地球 シリア、インド、北朝鮮は…

宇宙から見た夜の地球は、昼間と打って変わって、シンプルな明と暗の世界となる。それを写し出した衛星画像は、人間が何をしており、それがどのように変化しているかを把握する手がかりを与えてくれる。(参考記事:「宇宙から地球を「健康診断」 CO2や水分を衛星で観測」)
2017年4月、NASAが2016年のデータを基にした最新の「地球の夜」画像を公開した。すると、それを見た地図製作者のジョン・ネルソン氏は2012年の画像との違いに興味をそそられた。地域によって、明るくなったところと暗くなったところがあるようなのだ。「何度も画像を見比べ、どこで変化があったのかに興味を持ちました」とネルソン氏。「変化を表した地図があれば、非常に簡単に、一目で違いがわかるだろうと考えたのです」
米国の地理情報システムソフトウェア会社で地図を製作しているネルソン氏は、2つの画像の同じ点を比較し、一方の輝度値からもう一方の値を引いて差を算出した。そしてその差を地図上に、2016年の方が明るくなった場所を青、暗くなった場所をピンクで示した。(参考記事:「地球の表面、30年前より陸地が増えた」)

できあがった地図は、4年間で地球上の夜間光がどれほど変化したかを示すこととなった。なかにはわかりやすい大きな違いもある。例えば、上の中東の画像では、内戦で荒廃したシリアが暗くなっている。
下の画像のように、インドが劇的に明るくなったことも驚きではない。この国ではあまりに多くの人々が電気のない暮らしをしており、政府はこの状況を改善するため、地方電化プログラムを策定し、再生可能エネルギーに多額の投資を行っている。まだ道半ばではあるが、すでにネルソン氏の地図で容易に判別できるほどの成果が上がっている。

地図のほかの部分では、先進国の一部が暗くなるなど、簡単には説明のつかない変化も目立つ。「米国とヨーロッパが全体的に暗くなっていることに驚きました」とネルソン氏は言う。「高効率照明技術と関係があるのではないかと思います」
下の地図に示されているように、英国では光の量がかなり増えているものの、ヨーロッパの大部分はこれとは反対のことが起こっている。光害に対する認識の高まりと、その削減に向けたキャンペーンの影響が出始めているのかもしれない。

安易な解釈は要注意
NASAの地球科学者で、衛星スオミNPPの夜間光データ分析チームを率いるミゲル・ロマン氏は、ネルソン氏の地図に示された変化を特定の出来事に結びつける際には注意が必要だと述べている。ある点が明るくなった場合、それはその場所が電化されたためかもしれないが、「街灯の種類が変わったことも考えられます」と言う。
この地図は、興味深い変化を見つけ出し、それを研究するにはうってつけだ。変化の原因をより深く理解するには、特定の地域の変化を長期間にわたって追跡するのも有益だとロマン氏は言う。NASAは、地球の1日ごとの夜の映像を科学者らに提供する方針で、違法な漁業の発見、災害への対応、光害の原因の特定、脆弱な生態系の保護など、あらゆることに役立ててもらいたいと述べている。

「NASAのデータは本当に見事です。素晴らしい仕事です」と言うネルソン氏は、最新の「ブラックマーブル」(夜の地球)のデータに関する記事を読んだ瞬間にこのアイデアをひらめき、すぐに地図の作成に取りかかった。「私にとって最高の地図というのは、あるデータセットに対する驚きをきっかけに、楽しんで、駆り立てられるように作ったものです」
ネルソン氏は、ほかにも海洋化学に関する膨大なデータセットを視覚化するプロジェクトなどに取り組んでいる。「これで生計を立てているなんて信じられません」と言う。「驚くようなデータを見て回り、それを上手く凝縮して提示する方法を考え出すのは、とても楽しいです。参加したい面白そうなプロジェクトには事欠きません」

(文 Betsy Mason、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年5月3日付]
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