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自分の選択に後悔しない おしゃれでパワフルな94歳

「アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー」(2016年・米国)

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NIKKEI STYLE

「最近の人は皆似たような格好をしてて、嫌になる」

「平凡に生きたいという人にも、刺激は必要なの」

「毎日同じことを繰り返すくらいなら、いっそ何もしなきゃいい」

これはニューヨークに住む94歳のおばあちゃんの言葉です。

彼女の名前はアイリス・アプフェル。ファッション誌編集部の雑用からキャリアをスタートした彼女は、1940年代にインテリアデザイナーとして独立。またたく間に売れっ子となります。メトロポリタン美術館やホワイトハウスの内装を手がけ、世界中を飛び回っては織物や宝飾品を収集。50年代には、ニューヨーク社交界ですっかり有名人になっていました。

彼女は2005年、所有するジュエリーの展示会が大きな話題となり、なんと84歳にしてセカンドブレイク。現在でもファッション業界の重鎮たちからリスペクトを浴び続けています。ビジネスパートナーでもある夫とは、彼が本作の撮影後に逝去するまで仲むつまじく暮らしていました。『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』(2016)は、そんな彼女の日常を追ったドキュメンタリー映画です。

94歳、飛びきりのファッションアイコン

アイリスは、街を歩けば誰もが振り返るファッションアイコンですが、その装いは、ただ単にド派手なわけでも、流行のハイブランドで固めているわけでもありません。彼女は誰にも、何にも流されることなく、自分のセンスだけを頼りに、世界中から集めて選び抜いたアイテムを、絶対的な自信をもって身につけています。彼女は「おばあちゃんなのにオシャレ」なのではありません。「掛け値なしでオシャレなおばあちゃん」なのです。

とかくランウエー界隈で褒めそやされる服は、一般人のセンスでは到底理解できないほど前衛的なシロモノが少なくありません。しかしアイリスのまとう服は、誰もが直感的に「ああ、これはすごくオシャレなやつ!」と納得できるくらいの普遍性を帯びています。ベートーベンやビートルズの旋律が、聴き手の音楽的素養やセンスの有無にかかわらず、問答無用で聴き入らせるだけの強度を持っているのと同じです。

画面に次々登場するアイリスの華やかなファッションを眺めつつ、冒頭のように奔放な彼女の発言を聞いていると、実に晴れやかな気分になります。ピーカンの休日にのりのきいた上等なシャツを着て、銀座の歩行者天国を散歩しているような――とでも言いましょうか。

しかし、「アイリスを見習って、うるおいのある老後を送りましょう」などと浅はかなことは、口が裂けても言えません。普通の人がアイリスのような生活を送るのは絶対に無理だからです。彼女の類まれなる審美眼、それをビジネスとして結実させる実業家としての才覚、高い社交性やあふれる教養、ニューヨークのど真ん中で暮らせるだけの財力。これらがそろってはじめて、彼女のキラキラしたライフスタイルが成立するのですから。彼女は特別な人なのです。

全ては手に入らないから、選んだことには誇りを持つ

ただ、この映画は決して「成功者を羨ましく眺める」だけの映画ではありません。映画が全体の4分の3を過ぎるころ、アイリスは自分が子供を望まなかったことについて、今までになく神妙な顔で語りはじめます。

「全てを手に入れるのは無理だとわかっていたから、キャリアと旅行を選んだの」「あきらめるのも時には必要なのよ」。その言葉は重く、少しの憂いを帯びてはいますが、同時に自分の選択に対する絶対的な自信がみなぎっているようにも見えます。それはまるで、彼女の装う服やアクセサリーそのもの。胸を張って自分を貫き通していることで帯びる、気高い輝きです。

子供を持たない人生だと一度決めたら、容易には引き返せません。朝起きて、悩んだ末に決めた服を着て電車に乗ってしまったら、もう着替えることはできないのと同じです。春めいてきたからと薄着で出かけたのに夕方から肌寒くなったり、カジュアルを想定して参加したパーティーが思いのほかフォーマルな場だったり。いったん着た服を簡単には脱げないのが人生なのです。アイリスも我々も、そこに違いはありません。

でも、「もう一枚羽織って出ればよかった」「なんでハイヒールを履いてこなかったんだろう……」などとウジウジ後悔していたら、せっかく気持ちのいい春の夜や、楽しいパーティーが台なしです。いまこの瞬間、手元にないものについて思いをはせている暇なんて1秒たりともない。だったら、少し強がってでも、自分が選んだ「スタイル」に胸を張ったほうがいい。そのほうが人生を気高く歩めるのだということを、アイリスはこの映画で証明しています。

94歳のアイリスが、なぜ今でもこんなに魅力的で、誰からも愛されるのか。それは、人生で手に入らなかったものがあるにしても、彼女が過去のあらゆる選択に誇りを持ち、何ひとつ後悔していないからではないでしょうか。アイリスのような生活はできなくても、アイリスのように気高く生きることはできるかもしれない。そんなふうに思わせてくれる、希望に満ちた映画です。

稲田豊史
 編集者・ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年に独立。著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)。構成担当書籍に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎/原田曜平・著)など。「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。

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