「それやめて!」 嫌味や非難に聞こえる3つの英語
デイビッド・セイン「影の英語」(28)やめてほしい
ひとつの言葉は様々な顔を持っています。日本人の言葉が意図していない意味合いで伝わることもあります。日本人向けの英語教育で豊富な経験を持つデイビッド・セインさんが、日本人が使いがちな言葉から「影にある意味」を紹介します。今回はちょっとしたことをやめてほしいと同僚に伝える場面です。
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カチ、カチ、カチ……どこからか絶え間なく聞こえる音。目をやると、隣で同僚がボールペンをカチカチさせています。最初は気にならなかった音も、次第に耳障りになってきます。意外とありそうなシチュエーション。さて、あなたならどう言うでしょうか。
正しい訳:それ、やめてください。
影の意味:それ、やめてくれないかな。
Pleaseは丁寧な言い方として使われることもありますが、逆に「怒り」や「イライラ感」を表す場面で使われることもあります。「ちょっと頼むよ」のニュアンス。イライラを表したいときに使えばよいでしょう。
正しい訳:それをしなければなりませんか?
影の意味:どうしてもそれをやらないと気がすまないの?
Do you have to …? 「~をする必要があるのですか?/しなければなりませんか?」はそのままの意味として使えば問題はありませんが、「止めてほしい」というような場面で使えば、少々嫌味っぽい言い方になります。
正しい訳:なぜあなたはそのようなことをしているのですか?
影の意味:なんでそんなあほなことをやっているの?
「理由」を尋ねる場面で使うwhyですが、きちんとした理由を本当に聞いておきたい場面で使う疑問詞です。しかし、このように明らかに好意を持って受け入れていない場面で使えば、「何でそんなバカなことをしないといけないの?」のように相手を非難しているように聞こえかねません。
これなら「影の意味」はない!
過度に反応して悪いんだけど、その音が私の集中力を乱すんですが。
Sorry for being overly sensitive … は「もしかしたら自分が過度になっているのかもしれない」といちおう詫びることから始めて、その後に「その理由」を正直に述べることであなたの気持ちが伝わります。
ごめんなさい。そのペン、私の集中を乱すんですが。
率直ではありますが、Sorry と述べていることで、相手に対する礼儀は示しています。
ちょっとペンを貸していただけますか?
ペンに注目してもらう意味でも、これは効果的な言い方になります。場合によっては、これで気が付いてくれることもあり、問題はほぼ解決できると思ってよいでしょう。
あなたが知らない本当の使い方―― focus
focus 「フォーカス(する)」は日本語になるほど、日本でもおなじみの言葉です。「動詞」としても「名詞」としてもよく使われますがfocusedの形にして「形容詞」として使うこともできます。
【動詞】
・I need to focus all my energy on this project. このプロジェクトに自分の持つ全エネルギーを集中させる必要があります。
* focus all one's energy on: 全エネルギーを~に集中させる、~注ぎ込む
・Let's focus for now on the budget. さしあたりは予算に焦点を絞りましょう。
* focus for now on: さしあたり/当面、~に焦点を絞る
*focusは「焦点を合わせる/集中する」の意味なので for now「さしあたり/当面」のような言葉を入れることで「期限付きで」のニュアンスが出て、聞く相手にも負担にはなりません。
・Let's not focus on the details now. 今は細かい部分だけに焦点を合わせないようにしましょう。
* focus on a detail: 細部に重点を置く/注視する/重点的に取り組む
「(細部に捉われずに)全体を捉える」の意味で使えるフレーズです。
・Their questions focused on a slip of the tongue by the minister. 彼らの質問はその大臣の失言に集中しました。
*focus on: ~に集中する
a slip of the tongue: 失言
・The meeting needs to focus on reducing defects. 打ち合わせは欠陥品減少に重点を置く必要があります。
*focus on …の後に来るのは「名詞」ですが、このように … ing 「動名詞」でもOKです。
【名詞】
・Let's try not to lose focus. 焦点を失わないようにしましょう。
*focus: (名詞)焦点、関心、興味、意識などの中心
lose focus: 焦点を失う、まとまりがつかなくなる
・What is the main focus of this report? この報告書の主な焦点は何ですか?
*「何が主要/重要ポイントなのですか?」の意味。
・We need to keep our goals in focus. 私たちはゴールに集中する必要があります。
*keep … in focus: ~を焦点に入れておく、すなわち「集中する/焦点としておく」
・Let's not let the meeting get out of focus. 打ち合わせを曖昧なものにしないようにしましょう。
*get out of focus: 焦点/中心から出ていく、すなわち「焦点がぼける」の意味。
・During the meeting, the problem came into focus. 打ち合わせの中で、問題が明確になりました。
*come into focus: 焦点/中心の中へ入っていく、すなわち「明確になる/ハッキリする」の意味。
・We need to take a focused approach. 私たちは集中的なやり方をする必要があります。
*focused: 専心的な、集中した *過去分詞で、名詞approachを修飾する「形容詞」として使われています。
無意識に指でトントンとデスクを叩いたり、指を鳴らしてみたり、オフィスでは些細なことが気になり出すとなかなか集中できずに気持ちが乱されるものです。
相手に悪気のあろうはずもなく、そうなるとそれを注意するのはなかなか一筋縄ではいきません。絶対的な解決法はありませんが、やはり遠回しに嫌味を言ったり、何とか気づいてもらおうと思ったりするよりは、率直に自分の気持ちを述べる方がよいと思います。I'm sorry, but … Sorry, but … あるいは I hate to say this, but …「ちょっと言いにくいんだけど」のようなひと言をつけることで、相手の気持ちを和らげることが大切です。
Never give up!
: D セイン
※デイビッド・セインの「ビジネス英語・今日の一場面」は木曜更新です。次回は5月25日の予定です。
米国出身、20数年前に来日。 翻訳、通訳、執筆、英語学校経営など活動は多岐にわたる。企業や学校の人気セミナー講師。英語関連の出版物の企画・編集を手掛けるAtoZ(http://www.atozenglish.jp)・AtoZ 英語学校代表。