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驚きのなめらかさ 今買いたい高級万年筆の名品7選

日経トレンディネット

2017/5/16

パイロット「カスタム URUSHI」のペン先。同社では最大の30号
日経トレンディネット

 万年筆は新入学や就職のお祝いの定番だった。その風習がまた復活しようとしている。パイロットの「カクノ」のヒットや、さまざまなインクを使えるようになったこと、手ごろな国産万年筆の登場などによって、筆記具としての万年筆が見直されているのだ。また、カクノなどの入門的な万年筆に慣れたユーザーが、もう少し本格的な万年筆に移行し始めている。

 そこで、新入学、就職の時期に合わせて、ギフトとして、また自分へのご褒美としても使える、ややグレードの高い名品を集めた。せっかく万年筆を持つなら、贈るなら、しっかりした特徴を持ち、長く使えるものを選びたい。

■大ぶり30号のペン先! 驚きの書き味

PILOT「カスタム URUSHI」(8万8000円)

 書いてみてこんなに驚いたのは、久しぶりのことだ。パイロットの「カスタム URUSHI」は、紙にペン先が触れているかどうか、というくらいの感触のまま、スルスルと文字が書けてしまう。まったく抵抗がなく、思い通りに文字が書けるのだ。

 これはパイロットの万年筆の中でも最大の30号ペン先を持つ、全長155mmの大ぶりの万年筆。だが、あまりにも軽く、しかし確実に書けるので、手の小さな人でも使いやすいだろう。また、筆圧がいらないので立ったままでメモ帳に書いても、とても書きやすくて気持ち良い。

 エボナイト(硬質ゴム)の軸に漆をコーティングした軸は、手にすっとなじむうえに耐久性も高い。大きなペン先は、パイロットの名品「エラボー」に並ぶ柔らかさだ。しかし、実際に書くと、「柔らかい」とか「しなる」とか、そんな感触を味わうよりも先に字が書けてしまう。また、筆記時にしならせる必要がないから、柔らかいかどうかも分からないけれど、シュルシュルと紙の上には線が現れる。

エボナイトに漆のコーティングを施した軸は温かみがあって手になじみ、漆のコーティング力で長持ちする。そして、大きさの割に軽く感じるのも魅力だ
同社の「カスタム74」(写真右)とペン先の大きさを比べてみた。カスタム74も大きめのペン先を使っているモデルなのにこの差だ

 ペン先の性能や軸の握りやすさが、当たり前のように書きやすさに直結しているから、わざわざ、「柔らかい書き味」とか「ぬらぬら書ける」などの形容がいらないどころか似合わない。万年筆が優れた筆記具であることを、これくらい実感できる製品も少ないと思う。

■多くのエピソードを持つクラシカルな赤いペン

パーカー「デュオフォールドクラシック ビッグレッドCT」(8万円)

 一度は手にしたい万年筆として、かなり上位に来るであろうパーカーの「ビッグレッド」。万年筆にまつわる伝説は多いが、ビッグレッドほどいろいろなエピソードを持つ万年筆は少ないだろう。

 まず、マッカーサーが日本降伏の調印式で使用したというのは有名な話だ。それ以前に、黒軸ばかりだった万年筆の世界に、初めて赤い軸のカッコよさを知らしめたのも、広告で飛行機を使って空から落としても壊れない耐久性をアピールしたのも、このビッグレッドだ。そもそも、ビッグレッドという通称は、「大きくてインクがたくさん入る赤い万年筆」という意味があり、その実用性の高さとカッコよさで人気を博したものだ。現在発売されている「デュオフォールドクラシック ビッグレッドCT」は復刻モデルになる。クリップの形や軸の素材など、いろいろと改変されているものの、独特の赤と軸に施された刻印、クラシカルな軸のデザインなど、当時のイメージを崩さないように考えて作られている。

18金のペン先はやや固め。しなりが少ないので強い筆圧でも十分書ける。インクフローがとても良いので、筆圧が弱い人にも扱いやすい。初心者でもスムーズに使える
このオレンジの軸は、特殊なレジン製らしいが詳細は不明。深みのある発色と、伝統の「DUOFOLD」の刻印が特徴

 やや個体差はあるものの、堅実なしっかりと文字を紙にしみ込ませるような書き心地で、質実剛健、仕事にガシガシ使える。パーカーのペン先は耐久性を重視しているからか、柔らかくはなく、硬いというイメージが定着している。しかし、18金で大きさも十分にあってインクフローも良いので、紙へのタッチはとてもソフトで、自在に線が書ける。そのストレスのなさも含め、実用性と伝説が両立した名品だと思う。

■万年筆ファン憧れの復刻版が登場

ペリカン「M101N ブライトレッド」(5万円)

 世界中の万年筆ファンによる投票でナンバーワンにも輝いた、ペリカンの「スーベレーン」。その特徴をほぼ内包した形で1937年に発売された「M101N」は、ドイツ国内でのみ発売されたにも関わらず、コレクターの多い名品だ。2011年に復刻モデルが発売されたとき、素材こそ当時のままとはいかなかったものの、小ぶりの軸と14金の小型のペン先、マーブル模様と縦線が合わさった軸のデザイン、取り外せる吸入機構など、再現性が高く、とても高い評価を得た。その評価を受け、それからも軸の色などを変えたM101Nが限定販売されていて、その最新モデルが「M101N ブライトレッド」だ。

 万年筆としてはかなり小さい(全長123mm)が、ペリカンならではの技術力で、樹脂を使用した軸色や模様は複雑な光を放ち、シックだけれど目立つ。このサイズでインク吸入機構を内蔵し、たっぷりとインクが入るのも特徴の一つだ。

尻軸を回してインクを入れる。インクはグリップ上部にある透明の部分にたまるので、残量が一目で分かって便利
限定版だけあってパッケージも豪華。ロイヤルブルーのインクが付いている

 また、シンプルな刻印のペン先は、その飾り気のなさがむしろ新鮮。キャップの密閉性も高く、かなり長時間放置してもインクが固まらず、使いたいときにサッと書けるのがうれしい。真っ赤と言ってよい軸色だが、クラシカルな形のせいか、サイズのせいか、大人の男性が持っても違和感がない。キレイであることと実用的な筆記具であることが両立した傑作だ。国内予定販売数800本だが、今回のブライトレッドが売り切れても、次の復刻を待つ価値あり。

■源氏物語の美女7人が万年筆になった

セーラー万年筆×キングダムノート「源氏物語 玉鬘(たまかずら)」(税込み4万2120円)

 セーラー万年筆の「プロフェッショナルギアレアロ」をベースに、キングダムノートが源氏物語をイメージして作ったコラボモデル。シリーズ第1弾は、山吹色の軸の「玉鬘(たまかずら)」。光源氏が失った恋人、夕顔の忘れ形見の玉鬘である。源氏の下に身を寄せることになる玉鬘の正月の衣装のために源氏が選んだ、紅に山吹の花をイメージして作られている。

 平安の装束の重ねを意識して、裾や襟元から別の色がのぞく面白さを、軸本体と天冠、首軸、尻軸の色を変えることで表現。インク吸入式でインクが入る部分が透明になっているプロフェッショナルギアレアロなので、インクの色と軸の色の合わせを楽しめる。

ペン先には山吹の花の刻印がある。セーラー万年筆こだわりの21金。紙へのタッチの柔らかさに定評がある
キャップを外したときにちらりと中の紅がのぞく。インクの窓と合わせて色の重なりを楽しめる

 シリーズは、この玉鬘の中に描かれる「衣配り」の場面に着目。ここで光源氏に装束を選んでもらう七人の女性、つまり、玉鬘、紫の上(むらさきのうえ)、明石の姫君、花散里(はなちるさと)、末摘花(すえつむはな)、明石の君、空蝉(うつせみ)をイメージした全7本になるという。

 万年筆は、特製の箱に入り、インク1瓶と畳でできたインク瓶置きが付属する。毎回、限定数35セット。ベースは、インク吸入機構内蔵で扱いやすさに定評のあるプロフェッショナルギアレアロだから、ハードに書くことができる。この玉鬘のような、和の明るい色を前面に出した万年筆というのも珍しいし、面白いコレクションになりそうだ。

 また、それぞれの女性に合わせたオリジナルインクが2種類ずつ発売される。第1弾は「瑠璃君(るりぎみ)」と「山吹の細長(ほそなが)」。それが1カ月おきに発売され、シリーズ完結のあかつきには、万年筆7本、インク14色がそろう。

■一つとして同じものはないマーブル模様の手作り万年筆

笑暮屋「棗(なつめ)」(3万3000~6万5000円)

 笑暮屋は、エボナイトを加工する工場を持つ日興エボナイトの万年筆店。エボナイト軸の万年筆のセミオーダーを中心に、手作りの万年筆を販売している。軸のデザインを選び、素材を決め、インク供給方式を選び、サイズを選ぶ。さらに、描線の太さを決めれば完了。注文から約2カ月で万年筆が出来上がる。特に、一つとして同じものがないマーブル模様を選べるのがうれしい。また、インク供給方法もカートリッジやコンバーターだけでなく、昔ながらのインク止め式が選べるなど、笑暮屋ならではの万年筆が手に入るのだ。

 そのなかで、今回紹介するのは、「棗(なつめ)」という上部と下部を切り落としたスッキリした軸のデザインのもの。エボナイトの手に吸い付くような独特の質感には、このシンプルな形がよく似合う。クリップのない「方舟(はこぶね)」もお薦めだ。価格は、インク供給方法をカートリッジ式にして、サイズをSサイズにすると最も安くなり、サイズを大きくしてインク止め式にすると高額になる。

ペン先は小ぶりだが、安定して書けるドイツ製。刻印もシンプル
この一本一本違うマーブル模様がエボナイトの特徴。軸には「EBOYA maid in tokyo」の刻印がある

 エボナイトを磨いて出した艶や天然のマーブル模様は、ほかでは味わえないもの。ペン先はドイツのBock製14金。安定した品質で信用できる。全体に丁寧に作られていて、品質とセミオーダーであること、高品位なエボナイトの軸ということを考えると、かなりお買い得と言えるだろう。

■女性のギフトにぴったり! コレクターが開発した理想の1本

プラチナ万年筆「#3776 センチュリー ニース リラ」(2万円)

 プラチナ万年筆の歴史の中で培ってきた技術や経験の集大成のような「#3776センチュリー」シリーズ。作家で万年筆コレクターでもあった故梅田晴夫氏を中心にした研究グループと開発した理想の万年筆「#3776」を33年ぶり、5年の月日をかけて刷新したものだ。

 #3776センチュリーのペン先は、日本人が日本語を書くのに向いているだけではなく、比較的、誰が使っても気持ちよく書けるのが特徴。しばらく書いていれば、万年筆で書く面白さがスムーズに理解できるような気がするほど、ラクに書けてしまう。だから、初心者に薦めやすいし、かつて書きにくくて万年筆に挫折した人が手にするのにも最適。手ごろなモデルがそろっている。

 その#3776センチュリーシリーズの最新作が、「ニース リラ」だ。コート・ダ・ジュールの保養地、ニースの明るい光をイメージし、光をキレイに反射すると同時に握りやすさも追求した半透明の軸がポイント。透明感がありながらマットな触り心地は滑りにくく、しっかりと手にフィットするモデルとして、ニース・シリーズではこれまで「ピュール」と「ロゼ」が発売されていた。シルバーとクリア軸が白い砂浜と光の透明感を表現したピュール、ピンクゴールドのパーツをふんだんに使ったゴージャスなロゼに続くリラは、ライラックをイメージした明るいピンクの半透明軸にピンクゴールドのパーツを合わせた、華やかなモデルだ。

ピンクゴールド仕上げの金属パーツと軸のピンクとの相性が良く、とても華やかなペンだ
#3776の刻印のある大型14金のペン先もピンクゴールド仕上げ。スリップシール機能搭載で、インクを入れたままでもキャップを閉めておけば2年間放置しても書ける密閉性能

 女性向けの万年筆はいろいろあるが、このモデルは女性であれば年齢や趣味は問わず似合ってしまうようなデザインに仕上がっている。使う人によってフェミニンにもクールにも見えるのは、半透明の軸の質感の高さと、#3776センチュリーシリーズの筆記具としてのポテンシャルの高さがあるからだろう。

■闇夜に輝くステンドグラスのような大人のデザイン

ペント「 シンフォニー ラルゴ 紫紺の時空」(1万8360円)

 レジンのバリエーションの豊富さを教えてくれるペントの「シンフォニー」シリーズは、一本一本、テーマに沿った軸のデザインが印象的だ。しかも、その軸やキャップの精緻なレジン加工技術を堪能できるように、大型のキャップや太い軸を採用し、ゴージャスなリングを付けるなど妥協がない。その新しいシリーズ「シンフォニー ラルゴ」は、凝ったレジンの軸はそのままに、キャップと首軸、尻軸をブラックにして、軸にコントラストを効かせたデザインが特徴。

 今回の「シンフォニー ラルゴ 紫紺の時空」では、レジン細工の部分も青と紫系でまとめ、両端の黒い夜の闇の中に浮かび上がる街の明かりと、徐々に暗くなっていく光のグラデーションを表現。とてもセンス良くまとまったデザインになっている。

 万年筆としての性能も、ペン先はドイツのシュミット社のものを使い、ステンレス製ながら、引っ掛かりが少なく滑らかにペンが紙の上を動く。シュミット社のペン先は気圧変化に対応してインク漏れを防ぐなど独自の機能をもち、欧州では信頼のブランド。インクフローのスムーズさは、国産のペン先に迫る。長さも軸径もパーカーの「ビッグレッド」と比べても遜色のない堂々とした仕上がり。地味なデザインが多い日本の万年筆だが、こういう、ちょっとダークなムードも感じさせる、大人の華やかさが表現できる製品もあるのだ。

ドイツ・シュミット社のペン先はスチール製。インク供給はカートリッジ、コンバーター両用(コンバーター付属)
このレジンによる夜のステンドグラスのような妖しい模様が見事な軸

(文・写真 納富廉邦)

[日経トレンディネット 2017年4月17日付の記事を再構成]

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