年齢を聞かれるのがイヤです
脚本家、大石静
他人に年齢を聞かれるのが嫌です。年相応の中身がないと思うからです。なぜ人の年が気になったり気安く年を聞いたりするのでしょうか。特にご老人に対してひどいと思います。聞かれる方は嫌じゃないんでしょうか。(大阪府・女性・50代)
◇
雑誌の取材で東欧に行った時、若者が大人を尊敬し大切にしている世相に驚きました。日本とのあまりの違いに衝撃を受け、実にうらやましかったです。
なぜなら、私は年とともに若者に遠慮しながら生きていると感じるからです。65年の人生の中で様々なことを乗り越えた、たくさんのドラマを世に送り出した、そのことに誇りを持ちたいと思うのですが、持ちにくいのが、日本の世の中です。
一方、日本の若者は、「若い」というだけで漠然とした自信があって、年を重ねた者を見下している気がします。
なぜそうなのでしょうか。
それは伊勢神宮の式年遷宮に由来すると思うのです。
伊勢神宮は20年に1度遷宮を行います。まばゆいばかりの白木は、新しいものの美しさの象徴です。朽ちることのない石ではなく、腐りやすい木と萱(かや)で神殿を造り、しばしば造り変えて永遠の若さをめでる考え方が、日本人の若いもの好き、初々しいもの好きの根源であると、私は思っています。
相談者のDNAの中にも、私にも、その考え方が組み込まれていて辛いのです、きっと。
私の父は三重県の生まれでしたので、伊勢神宮には幾度も連れて行ってもらいましたし、その神気に満ちた雰囲気は圧巻です。否定する気持ちは全くありません。日本固有の尊い文化ではありますが、多くの日本人が「年輪を重ねたもの」より「若いもの」が尊いと受け取ってしまった側面は見逃せません。
相談者のお気持ち、よくわかります。
老人に年齢を聞くのはひどいと書いておられますが、本当はあなた自身が聞かれたくないのでしょう。責めているのではありません。私もそうなので、わかり過ぎるほどわかるのです。
「年相応の中身がない」なんて本当は思っていないのに、そういう謙遜を、世の中から強いられているような気がします。
もっと堂々と生きましょう。恐れることなく気難しい老人になって、言いたいことを言いましょう。私たちが生きている間に世の中は変わりません。こちらが世の中にあらがう勇気を持って、若さ以外の価値を体現していくしかありません。
私も年齢に胸を張るよう努力しますので、あなたも頑張ってください。
[NIKKEIプラス1 2017年5月13日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。