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スタンフォード大学経営大学院 (C)Stacy Geiken

スタンフォード大学経営大学院 (C)Stacy Geiken

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はビジネス交渉術を教えるマーガレット・ニール教授の3回目だ。

交渉でよくある失敗が、自分の要求だけを伝えること。相手にとってのメリットを強調した解決案を提示しなければ、相手はのってこない。交渉の達人、ニール教授が自らの経験をもとに「4つのステップ」を指南する。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 マーガレット・ニール氏 (c)Nancy Rothstein

学部長と交渉する

佐藤:著書では、交渉術で想定以上の結果を手に入れた例として、ニール教授自身の体験談が書かれています。学部長と交渉して、本来ならば6科目教えるべきところを、ニール教授だけ5科目でOKとなった事例です。この交渉で次の4つのステップをどのように使ったか、詳しくご説明いただけますか。

1)交渉すべきかどうかを算定する
2)情報を集めて準備する
3)相手の意見を聞いてみる
4)パッケージで提案する

ニール:数年前の夏のことです。学部長から「プロボスト(教務部門のトップ)が新しいルールを導入したので、今年から教員は年間6科目教えてください」というメールが届きました。私は「6科目はあまりにも多すぎる」と不満に思い、何とかして現状の5科目を維持できないかと考えました。

私はまず、学部長と交渉した場合、しなかった場合のプラス・マイナスを算定してみました。この場合、交渉して失敗したとしても、「6科目教えてください」と言われるだけで、何のマイナス材料もありません。

そこで、私は早速、交渉準備に入りました。「どんな情報を共有すればいいだろうか」「学部長がいちばん気にしていることは何か」という点について情報を集めた結果、2つのことがわかりました。まず1つめは、学部長は、プロボストが定めたルール(学生に教えるトータル時間数)を尊重していれば、科目数にはこだわらないと考えていたこと。2つめは、学部長は、私が毎回、1コマ3時間のコースを3時間半、教えていることを知らなかったこと。私の授業はいつも定時には終わらず、15分から30分、延びてしまっていたのです。

これらを考慮した結果、私は交渉本番で、(1)自分が普段3.5時間教えているという新情報を伝え、(2)「3時間×6科目ではなく、3.5時間×5科目でどうですか」という提案をすることにしました。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

「相手の意見を聞いてみる」のステップでは…

佐藤:「算定する」「準備する」の次は、「相手の意見を聞いてみる」です。

ニール:学部長との交渉の冒頭、私は「ちょっと助けていただきたいのですが……」と言い、まず助けを求めました。すると、彼は「私に何ができるでしょうか」と言い、そこで協調的な雰囲気が生まれました。この「ちょっと助けていただきたいのですが……」と言って会話を始めるのは、相手の意見を尊重していることのあらわれですから、協力して問題解決する上で、とても重要なのです。仮に私が「6科目教えるのはいやなので、5科目にしてもらうよう交渉しにきました」と会話を始めていたら、学部長は戦闘モードに入ってしまい、うまくいかなかったでしょう。

佐藤:なるほど。とにかく自分の要求を一方的に伝えない、ということが大切ですね。次に「パッケージで提案する」です。

ニール:友好的なムードが生まれたところで、「1コマ3時間のコースを6科目教えるのではなく、3時間半のコースを5科目教えるというのはいかがでしょうか。今教えているコースを3時間から3時間半に延長します」と言ってみました。つまりパッケージで提案したのです。

「その理由は?」と学部長。そこで私は、「私の授業は演習が多いので、3時間の授業が時間どおりに終わることがほとんどありません。6科目となると、3時間半のコースを6科目教えることになり、負担が大きいのです」と説明しました。すると部長は「それなら問題ありません。3時間半のコースを5科目教えてください」と快諾してくれました。「ありがとうございます!」と言って、無事、交渉成立です。

佐藤:学部長からの通達事項を交渉可能だと思ったのはニール教授だったそうですね。他の教授陣は、誰も学部長と交渉しなかったと聞きました。

ニール:そうです。ですから同僚は皆、6科目教えていますよ。彼らはとても優秀な教員ですが、この通達に交渉の余地があるとは考えなかったんです。でも私はとにかく、可能性があるかだけでも聞いてみようと思った。最悪でも「ダメです、6教科教えてください」と言われるだけですからね。

マイナスないなら交渉に踏み出せ

佐藤:これはまさに交渉で想定以上の結果を得た好例ですね。

ニール:そうです。交渉しても何もマイナスにならない場合は、とにかく相手に可能性を聞いてみよ、です。

佐藤:思いきって交渉したとしても、私たちはニール教授のように良い結果が得られないことが多いのです。なぜ交渉で失敗してしまうのでしょうか。

ニール:4つのステップを踏んでいないからです。算定する、準備する、相手の意見を聞いてみる、パッケージで提案する。この4つを守らずに、場当たり的に交渉してしまう。これが失敗のもとです。

それから、結構、簡単に交渉をあきらめてしまう人が世の中には多いですね。一度、ノーと言われたからと言って、交渉をやめないでください。これは、ただの第1段階だと思って、そのあと、時間をかけて交渉していけばいいのです。

※ニール教授の略歴は第1回「『想定以上』の結果を得る交渉術 スタンフォード流」をご参照ください。

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