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スタンフォード大学経営大学院のキャンパス (C)Elena Zhukova

スタンフォード大学経営大学院のキャンパス (C)Elena Zhukova

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。今回はビジネス交渉術を教えるマーガレット・ニール教授の2回目だ。

交渉には妥協がつきものだと思っていないだろうか。スタンフォード流交渉術の「4つのステップ」を使えば、妥協などしなくとも、想定以上の結果が得られるのだという。交渉前に必ずやっておくべき4つのステップをお伝えする。(聞き手は作家・コンサルタントの佐藤智恵氏)

スタンフォード大学経営大学院 マーガレット・ニール氏 (c)Nancy Rothstein

4つのステップとは?

佐藤:まもなく日本でも発売される著書"Getting (More of) What You Want"(想定以上の結果を手にいれる)では、効果的な交渉をするための「4つのステップ」を紹介しています。

1)交渉すべきかどうかを算定する
2)情報を集めて準備する
3)相手の意見を聞いてみる
4)パッケージで提案する

一番目の「交渉すべきかどうかを算定する」とはどういうプロセスでしょうか。

ニール:交渉をした場合、しなかった場合のプラス・マイナスを算定します。「交渉したら本当に想定以上の結果を得られるか」「この状況を交渉せずに改善できるか」「交渉しなかった場合、どれだけの犠牲を払う覚悟があるか」など、現状を分析し、交渉すべきかどうかを決定するのです。

佐藤:算定した結果、交渉すると決めた場合、次のステップは「情報を集めて準備する」です。

ニール:準備するというのは、非常に重要なプロセスなのです。多くの人々が交渉前の準備を怠って失敗しています。交渉前には、次の事項を考えておかなくてはなりません。「私は最終的にこの交渉で何を得たいのか」「どうしても獲得したいと思うものは何か」「第1希望が通らなかった場合の代替案は何か」「どういう案件を並べて交渉するのか」「お互いにとってウィン・ウィンとなる結果は何か」。これらを明確にした上で、相手の情報を集め、精査していきます。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

相手の意見を傾聴するのが重要

佐藤:「準備する」が終わったら、次は交渉です。交渉では「相手の意見を聞いてみる」のがとても大事だそうですね。

ニール:相手が知るべき情報を自分から共有する、相手に質問して相手の意見を傾聴する。この2つがとても大切です。お互いに質問しあって情報共有し、お互いを利する解決案を生む。これこそが交渉する目的です。

特に会社では、上司や同僚は知らなくて「自分だけが知っている情報」というのが意外にたくさんあるものです。その情報を共有するだけで、問題が解決することも多々あるのです。

佐藤:お互いの情報を共有したら、最後が「パッケージで提案する」です。

ニール:交渉するときは、1つの案件だけではなく、複数の案件を俎上(そじょう)にのせ、パッケージで解決策を提案してください。先ほど、交渉は共同で問題を解決する方法だと言いましたが、そのためには、パッケージで提案することが必要なのです。

多くの人々が「交渉の場では1つの案件しか交渉できない」「1つの案件について考えるのがわかりやすくてベストだ」と誤解していますが、これは間違いです。1つの案件ごとに交渉したら、本来得られるものも得られません。1つずつ交渉すると、どっちが勝って、どっちが負けたかがすぐにわかってしまい、交渉が点取り合戦になってしまうからです。単一案件での交渉がマイナスであることは、調査結果でも明らかになっています。

複数の問題を同時に俎上にあげれば、トレードしやすくなります。すると1つの案件だけでは思いもよらなかったような解決策が見えてきます。これをとって、これを譲ったら、自分も相手も得するな、と。ですから、提案するときは、「もし~したら、こうしましょう」という言葉を多用してください。「もし私がこっちを獲得したら、あっちをお譲りします」といった感じです。

妥協しない方法を考えるべき

佐藤:交渉では、時には妥協することも必要でしょうか。

ニール:お互い妥協しないで合意する方法を考えるべきです。交渉とはお互いに犠牲を払って合意に至ることだと考えている人があまりにも多いと思います。

妥協する、というのはとても簡単な解決方法です。私は10ドル欲しい、あなたは5ドルしか払えない、結果7.5ドルで決着する。これが妥協です。ところが、この解決策だと、誰も不幸にならないかわりに、誰も幸せにならない。お金だけの問題であれば、時に妥協するのもありかもしれませんが、妥協はしばしば後悔を生むのです。

たとえば、こんなケースです。合意に至ることを最優先に、自分が一番欲しかったものをあきらめて、二番目に欲しかったものを獲得することにした。ところが、後から聞いてみると、自分が一番欲しかったものは、相手にとっては「あげてもいいもの」だったことが分かった。交渉の場で、こちらから別のものを提供していたら、一番欲しいものを簡単に獲得できたはずだった……。

佐藤:妥協して後悔しないためにも、パッケージで提案することが必要なのですね。

ニール:そのとおりです。いくつかの案件を同時に交渉すれば、「これらはあまり必要ないからそちらに全部あげます、だから、これだけは私に譲ってください」とトレードすることができます。そうすれば、妥協するよりも、よほどよい結果が得られるのです。

※ニール教授の略歴は第1回「『想定以上』の結果を得る交渉術 スタンフォード流」をご参照ください。

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