働き方・学び方

私の履歴書復刻版

「関心は現在」 メザシの土光さん「行革」への思い 第4代経団連会長 土光敏夫(1)

2017/5/15

 清貧ぶりと無私の姿勢で「メザシの土光さん」と慕われ、1980年代の行政改革の先頭に立った土光敏夫氏(どこう・としお、1896-1988)の「私の履歴書復刻版」の連載が始まります。土光氏はタービン一筋のエンジニアから身を起こし、石川島重工業(後に石川島播磨重工業、現IHI)、東芝の会社再建を果たした後、経団連会長として「行動する経団連」を主導、晩年は行政改革に身をささげました。第1回は好きな言葉の話から行革に賭ける思いを語っていきます。

■日新、日日新――やはり「現在」に関心 “行革”で楽しい余生はお預け

 私の最も好きな言葉は、中国の古典『大学』伝二章にある「苟日新、日日新、又日新(まことに日に新たに、日々に新たに、また日に新たなり)」というものである。

 これは、中国・商(殷)時代の湯王が言い出した言葉で、「今日なら今日という日は、天地開闢(かいびゃく)以来はじめて訪れた日である。それも貧乏人にも王様にも、みな平等にやってくる。そんな大事な一日だから、もっとも有意義に過ごなさければならない。そのためには、今日の行いは昨日より新しくよくなり、明日の行いは今日よりもさらに新しくよくなるように修養に心がけるべきである」という意味。

 湯王は、これを顔を洗う盤に彫り付け、毎朝、自戒したという。

執筆したころの土光氏

 私もこれを銘として、毎朝、「きょうを精一杯生きよう」と誓うのだが、凡人の浅ましさ、結果としてはうまくいかない日の方が多い。しかし、少なくとも「この一日が大事である」という思いだけは自覚しているつもりであるし、しくじった時は、その日のうちに反省して悔いを翌日に持ち越さないようにしている。その区切りとして、毎朝と毎就寝前、2、30分、お経を読む。つまり、それでしくじりをカンベンしてもらうわけである。そうすれば、安眠でき、悪い夢もみない。次の日、スッキリして仕事に取りかかることができる。

 こうした私の信条からすると、本欄に登場して過去を語ることなぞ、もっとも意味のないことなのだが、結局は付き合ってきた記者の永年の情にほだされてしまった。私が無意味だと思うことを、いや大いに意味があり、読者もほしがっています、と執拗(しつよう)に言うものだから、それならまな板にのろうかという次第になった。

 しかし、私は過去についてあまり詳細には覚えていない。従って、友人、知人、家族の記憶に頼った部分もある。ひとに言われてみて、そんなこともあったかな、と思い出す程度だ。表現のあいまいな部分は、そんな事情なので看過していただきたいし、また、自分では事実だけを語ったつもりが、もし自慢話めいて聞こえたならば、当方には毛頭その意思はないので、これもどうかカンベンしていただきたい。

 ところで「履歴書」といっても、私にとっては、やはり「現在」にもっとも関心がいく。私の「現在」の中で、今、いちばん重要なのは、第二次臨時行政調査会会長としての私である。

 ご存じのように臨調、つまり行財政改革問題は、わが国が国家として取り組まねばならない最大の問題で、しかも焦眉の急を要する。現在、国債が82兆円出て、地方債も40兆円近い。国民1人当たりの勘定にすると、赤ん坊まで入れて約100万円の借金があり、3人家族なら300万円の計算になる。こんなことは欧米諸国にも例がないし、ましてわが国でも、太平洋戦争のときの水準を超えている。

 そのうえ、昭和56年(1981年)予算編成時、渡辺蔵相(当時)が出した中期財政展望では、59年度(1984年度)には6兆8000億円近くの国債を発行しても、まだ財政が6兆8000億円の赤字になるという。このまま、手をこまぬいていたなら国債発行残高が100兆円を超すのは時間の問題で、日本は59年度までに破産してしまう。

 そういう破局を避けるために第二次臨調が設置されたわけだが、この解決はなかなか難問題である。

 たんに、財政の赤字解消というだけではなくて、これから日本が、いや世界が進むべき方向を探り当てなければ、本当の行革はあり得ない。実に厄介な問題に取り組むことになってしまった。

 もともと、私は余生を妻と2人でブラジルで畑を耕しながら送る気でいた。石川島播磨重工業の社長のいすを田口連三氏に譲った時、本気でリオデジャネイロ周辺に土地を探したものだった。その楽しい余生はまた遠い夢となった。国家の問題で、だれかがやらねばならないとするなら、ぐずぐずいっても仕方がない。あくまでやり通すまでだ。当面、私はことあるごとに「行革、行革」と叫ぶつもりでいる。

 この連載は、昭和57年(1982年)1月に日本経済新聞に連載した「私の履歴書」および「私の履歴書 経済人 第20巻」(日本経済新聞出版社)の「土光敏夫」の章を再掲したものです。毎週月曜日と木曜日に更新します。2013年、日経Bizアカデミーで公開した記事を再構成しました。文中には今日では不適切とされる表現や行為の記述などがありますが、作者が故人であり、作品の発表された時代的・社会的背景も考慮して、原文のまま掲載しました。

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