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遺言の公正証書を作ってみた 手続き簡単、所要30分

2017/5/11

記者が作成した遺言公正証書(正本と謄本)

 相続をめぐるトラブルの芽を摘むため、自分に万が一のことがあった場合の遺言を「公正証書」という公文書にしておく人が増えてきた。どんな手続きで、どのくらい費用がかかるのか、記者(39)が実際に作成してみた。

 公正証書は裁判官OBなど法律の専門家である「公証人」が作るので、自分で書く「自筆証書」に比べて内容の証明力が高い。これで遺言を作っておけば、「ほかの人が書いたニセ物ではないか」という疑いの余地がないし、だれにどの財産を相続させるのか、あいまいなところのない明確な文書になる。

 記者には子どもがいないため、将来、両親とも他界したあとに自分に万が一のことがあると、法律上は妻のほか、姉にも相続人の権利が生まれる。この場合、すべての財産を妻に相続させる遺言を書いておけば、姉は相続できなくなり、想定外のトラブルが防げると聞いた。兄弟姉妹には遺言と関係なく相続できる「遺留分」がないからだ。

■公証役場、全国に300カ所

 弁護士や司法書士らに手伝ってもらうと少なくとも数万円の費用が上乗せされるので、今回は自分で手続きすることにした。とはいえ、公正証書を作ってもらえる「公証役場」は全国に約300カ所ある。元公証人の弁護士、北野俊光さんに相談したところ「日本公証人連合会のサイトにある一覧表を見たりして、自分が通いやすいところを選べばいい」と教えてくれた。

 遺言を書くのはもちろん初めてで、自分だけでできるか不安だったが、北野さんから「公証人が無料で相談に応じてくれる」と聞いてホッとした。いきなり訪ねるのではなく、相談日時を事前に予約したほうがいいようだ。北野さんの紹介があり、職場にも近い銀座公証役場(東京・中央)で作成することにした。

■本人確認、免許証やパスポートでも

 同役場での相談はまず本人確認からだ。担当の公証人、寺尾洋さんから印鑑登録証明書を求められたが、記者は実印を使う機会がないので持っていない。この場合は運転免許証やパスポートなど顔写真入りの証明書でも問題ないそうだ。このほか、相続人との関係を確認するための戸籍謄本などが必要になる。

公証役場は全国に約300カ所(銀座公証役場)

 記者の財産のほとんどは預貯金だが、寺尾さんから預貯金のある金融機関名や支店名、口座番号、普通預金か定期預金かなどを聞かれて即答できなかった。もっとも、公正証書の文案などと合わせて後日メールでもやりとりできると聞いてまた安心した。

 自宅などの不動産は、その土地、建物を所有していることを証明する「不動産登記事項証明書」を法務局で入手し、価格の目安となる固定資産税の課税証明書などを提出することになる。公正証書作成の手数料が財産額によって決まるためだ。預貯金についても、公証人によっては通帳のコピーなど残高が分かる書類を求められるが、いずれも難しい書類ではない。

■利害関係のない証人2人が立ち会い

 公正証書を作成する当日には、利害関係のない証人2人が立ち会わなければならない。親しい友人などに頼んでもいいが、プライベートのことを知られたくない人も多いだろう。記者はあてがなかったので公証役場で有料で紹介してもらうことにした。

 いよいよ作成当日、初対面の証人2人の立ち会いのもと、あらためて財産をすべて妻に残す意向を伝える。寺尾さんが公正証書を読み上げてその通りかどうか確認し、最後に証人とともに署名なつ印して完成。所要時間は30分ほどで、その場で手数料を現金で支払った。ちょっと拍子抜けするほど簡単だった。

 公正証書の原本は作成した公証役場で保存され、正本と謄本は持ち帰れる。記者の場合は「1通を本人、もう1通を相続人が持っておけばいい」(寺尾さん)という。今回は「記載以外の一切の財産も相続する」との一文を入れたので、これから財産が増えても書き直す必要はない。1万1000円の手数料で白紙撤回できることも知っておこう。

(藤井良憲)

[NIKKEIプラス1 2017年5月6日付]

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