稼ぐ女性ほど未婚に 日本とイタリア、性別分業根強く
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
2015年の国勢調査結果で、生涯未婚率(50歳時点未婚)の高まりが注目を集めている。国立社会保障・人口問題研究所によると男性23.37%、女性14.06%で、前回10年の調査より男性3.23ポイント、女性約3.45ポイント上昇し、いずれも過去最高を更新した。
目を引いたのは全国一婚姻率の高い東京で、生涯未婚率は男性26.06%と全国3位、女性は全国1位の19.20%となった点だ。地域別に見ても東京在住女性の生涯未婚率は、2位以下と比べ突出して高い。要因としてまず想起されるのは、東京は女性の賃金水準が高く、それだけ女性にとって結婚の魅力が乏しいのではとの観点である。これは、戦後先進諸国で見られた未婚化の高まりを説明する「女性の経済的自立仮説」に相当する。経済学者ゲーリー・ベッカーが唱えたものであり、「女性の社会進出が未婚化を推し進める」との見方の根拠となった。
だがこの仮説は、近年先進国では該当しない国が増えている。女性が経済力をつけるほど未婚率の押し上げ要因となるのは、性別分業が固定的な国に限定されており、性別役割が平等な国ほど、女性は経済力があるほうがむしろ結婚しやすい傾向が見られるのだ。また先進諸国では、おおむね90年代以降は女性の就労率が上昇するほど出生率も上昇するため、「女性就労も出生も同時に促進される」との傾向が見られている。
それでは、日本の場合はどうだろうか。同研究所の福田節也氏は、90年代から00年代初頭にかけて、先進国における女性の所得と婚姻率(初婚)の関係を検証。性別分業志向の弱い英国や北欧諸国では、高収入は女性の結婚を促進する結果がみられたが、性別分業の根強いイタリアと日本では、女性の収入が一定水準まで上昇すると未婚が進むとの結果を報告した。イタリアでは年収が1万7千ユーロ以上になると、何と無収入の女性よりも結婚しにくくなってしまう。日本では、女性の年収増は410万円までは結婚確率に関し正の効果をもたらすが、それ以上になると効果が減っていく結果となった。
女性にばかり「仕事か家庭か」の二択が迫られる日本では、女性が高収入職で就労継続を希望する場合、結婚の魅力が減退するという構図が浮き彫りになったといえる。このまま看過すれば、「女性活躍」と「少子化対策」双方の達成など絵に描いた餅といえよう。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊5月1日付]
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