『追憶』の降旗監督が語る 岡田准一と高倉健の共通点
日本映画界の名匠・降旗康男監督といえば、『駅 STATION』(1981年)や『鉄道員(ぽっぽや)』(99年)など、2014年に亡くなった高倉健主演映画を数多く手がけたことで知られ、その大半を名カメラマン木村大作とのコンビで送り出してきた。そんな黄金コンビが9年ぶりにタッグを組んだのが、最新作『追憶』だ。降旗監督に、作品への思いを聞いた。
『追憶』は、富山県の漁港を舞台に、ある殺人事件を通して、幼なじみだった3人の男が刑事、容疑者、被害者として再会。事件の真相と共に、彼らの封印された過去が明かされていくというヒューマン・ミステリー。
「高倉健主演作のめどが立った時に、突然健さんに逝かれてしまい、がっかりしました。そんな時に、この脚本に出合いました。もとの脚本は実際にあった事件をベースにした実録ものというテイストが強く、事件自体に重点が置かれたものでしたが、それを登場人物たちが魂を救い合う話にしたかった。そこで、ヒロインの設定を聖母マリアのように変えて、脚本の手直しを進めていき、それを東宝に持ち込んだらOKが出たんです」
そして、昨春クランクイン。降旗監督のもと、岡田准一が主演を務め、小栗旬、柄本佑を中心に長澤まさみ、安藤サクラ、吉岡秀隆といった若手実力派が集結した。
「自分の殻と言ったら悪いけれど、脚本という枠の中で仕事をしてきた皆さんに、『脚本の枠を突き破ってくれ』とお願いしました。その分、作品も良くなったし、それに、木村大作カメラマンなのでフィルム。フィルム撮影の場合、失敗が簡単に許されない。だから、デジタルに慣れている俳優さんにとっては、いつもと違い、1回にかける集中力がとても必要だったんじゃないか。そう考えると、彼らにとっても収穫だったんじゃないでしょうか」
特に、岡田と小栗の共演シーンでは、2人にセリフを言いやすいように自分たちで変えてほしいと指示を出したという。「冒険? いや、それほどではないけれど、2人にやらせたらどうなるのかなと思って」と柔和な笑みを浮かべる。
巨匠たちの目に映った若手俳優
一方、『劒岳 点の記』(09年)の監督としても知られるカメラマンの木村大作とは、妻夫木聡主演の『憑神』(07年)以来、9年ぶりのタッグ。本作で16本目になるだけに、もはや言葉は要らないと笑う。
「『今度も一緒にやる?』と聞いたら、『一緒にやろう』。もうそれだけですね。言葉を使ったのは、スケジュール的な相談ぐらい(笑)。映画に関しては、あんまり変わらない感受性を持っているんでしょうね、いや、本当に持っているかどうかは分かりませんが(笑)。映画のことで言葉を尽くして話し合わなければならなかったという記憶がないんです」
というほど、絶対的な信頼を寄せている降旗監督と木村カメラマン。互いに日本映画界に50年以上も身を置き、まさに日本映画界の生き字引といってもいい2人。そんな巨匠たちの目には今回の若手たちはどう映ったのだろうか。
「木村大作カメラマンが言うには、岡田准一クンは高倉健だと。そして自分が育った東宝の往年のスターになぞらえて、小栗旬クンは三船敏郎、柄本佑クンは森繁久彌だと。僕は…、そうですね。往年のスターたちとはやっぱりまだまだ比べものにならないとは思いますが、その芽は芽吹いてるんじゃないかなと。現場で、岡田クンの背中を見たら、何だかだんだんその姿が物を言うようになってきて、健さんを思い出したんです」
スター不在といわれるなか、新たに日本映画界を担う存在に出会った監督。次回作を尋ねると、「今はこの『追憶』のことだけ…」と言いながらも「いつも本は探しています。なんかいいのがあったら教えてください(笑)」と茶目っ気を見せた。御年82歳、映画を作り続ける意欲が尽きることはない。
富山県警の刑事・四方篤(岡田准一)は刺殺体となった幼なじみの川端悟(柄本佑)と対面する。事件の容疑者として浮上した田所啓太(小栗旬)もかつての親友。3人は25年前、不幸な少年たちで、心優しい喫茶店の女性店主・涼子(安藤サクラ)のもとに身を寄せていた。だが、ある悲劇を機に、彼らはバラバラに。悟の事件で再び篤は啓太と再会するが、啓太は多くを語ろうとしなかった…。(5月6日から全国東宝系にて公開)
(ライター 前田かおり)
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