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ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している書店を離れて青山まで足を延ばした。渋谷にもほど近い国連大学の裏手にある青山ブックセンター本店だ。大手町、八重洲、汐留という都心東部の中心ビジネス街と比べると、30~40代の客層が目に付く。外国雑誌なども入り口に並ぶしゃれたワンフロアの大型店でビジネス書の担当者が注目していたのが、元エンジニアの飲食店主が新しいことを始める人向けに書いたユニークなビジネス書だった。

新しいことを始めたい人への思い熱く

その本は小林せかい『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』(祥伝社)。未来食堂は東京・神保町で2015年9月にオープンした定食屋で、著者は店主を務める。元ITエンジニアが開いた定食屋として、斬新なビジネスモデルや理念が話題になり、テレビや新聞、ウェブメディアなどで盛んに取り上げられた。昨年末にはウーマン・オブ・ザ・イヤー2017の食ビジネス革新賞を受賞している。その著者が自身の体験をもとに書いたビジネス指南の書だ。「何かを始めたいと迷うあなたへの、何よりも応援メッセージになると確信して」筆を執ったと著者は書く。

全体は7章構成。前半では、何か新しいことを始めるときの「考え方」「やり方」「続け方」「伝え方」をつづり、後半になると未来食堂が多くの人に注目された経験から、「人が心を動かす瞬間」「注目を集めるメリットとデメリット」「注目されたときに気をつけること」が描かれる。未来食堂は1人で回すカウンター12席だけの定食屋だが、一度来店した人なら誰でも50分手伝うと1食無料になる「まかない」や、おかずをオーダーメードできる「あつらえ」、誰でも1食無料になる「ただめし」というユニークなシステムを備える。こうした仕組みがどのように生まれ、育っていったのか、その時々の店主の頭の中と行動が、何かを始めたい人に向けて語られていく。

思考経路を丹念に伝える

印象的なのは、著者自身の言葉の力強さと経験から立ちのぼる確かさだ。例えば、「考え方」を書く第1章に「『当たり前』を解体する」という節がある。食堂を始めるにあたって疑問に思った「当たり前」は「なぜ飲食店にはメニューがあるのだろう」ということ。そこから「大切なのは『お客様が満足すること』」と考え、「ならメニューがなくても、お客様が何を望んでいるか聞いてそれを調理すればいい」と考えた思考経路が明かされる。この経路をたどって生まれたのが、おかずのオーダーメード「あつらえ」というサービスだ。「何かを始めるときの考え方や向き合い方が、著者自身の言葉でしっかりと書かれている。お客さんの反応もとてもいい」と同書店でビジネス書を担当する益子陽介さんは話す。

広告系やAI、個性派の売れ筋

それでは先週のベスト5を見ておこう。

(1)最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法中村禎著(宣伝会議)
(2)やりたいことがある人は未来食堂に来てください小林せかい著(祥伝社)
(3)仕掛学松村真宏著(東洋経済新報社)
(4)超AI時代の生存戦略落合陽一著(大和書房)
(5)さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版トム・ラス著(日本経済新聞出版社)

(青山ブックセンター本店、2017年4月16日~4月22日)

1位はベテランコピーライターによる広告コピーの書き方を伝授する本。未来食堂の本は2位だ。3位の本は、大阪大学准教授の著者が提唱する新しい学問「仕掛学」を一般向けに分かりやすく解説している。人に行動を促す引き金になる様々なデザインやアイデアについて考察する。4位は、これからの時代の「生き方」「働き方」「生活習慣」を、メディアアーティストであり研究者でもある著者が描いてみせた一冊。5位には、前回の八重洲ブックセンターの売れ筋でも紹介した自分の強みを知る本が続く。

並べてみると、大手町や八重洲とはかなり異なる売れ筋になっている。「ビジネス書では、テーマ特集の平台をつくるなど、最新刊以外にも目が向くようなしかけをしている」と益子さんは言う。最近作っているのは、地政学、人工知能(AI)、未来の働き方などのテーマの本を並べた平台。クリエーターやプランナーが多いという客層と、こうした書店独自の取り組みが組み合わさって生まれた、書店の顔が見えるラインナップだ。

(水柿武志)

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