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カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。3回目は「リーダーの振る舞い」について、ゴーン氏が答えます。

リーダーの振る舞いとは?

リーダーは誰しも「完璧ではない」が、失敗を感じさせないリーダーは完璧に見える

Q 完璧なリーダーはいるのでしょうか。また、リーダーは完璧でなくてはいけないのでしょうか。

まず、「完璧なリーダー」というものは、本当はいません。しかし、人々から「完璧なリーダー」と思われるようなリーダーはいます。

では、そのリーダーは何をしているのかというと、失敗が起こる前にその芽を摘み取っているのです。失敗が生じる兆候や可能性を見極めて、失敗が実際に生じる前の段階で是正をしてしまうのです。ですから、外部から見ると、そのリーダーの周りには失敗など起こりえないかのように映るわけです。

一般的に、人は、問題が発生し、その影響が生じた段階で、「これは問題だ」と意識します。けれども「完璧なリーダー」と評価されるリーダーは、問題の影響が生じる前に、その問題の存在をすでに意識しているということです。

しかし、現実を見ると、問題の兆候を読み取って、影響が出る前にその芽を摘み取るのは簡単なことではありません。たしかに、向こう1年といった短期間であれば、これから起こりうる問題を予知することはできるかもしれません。しかし、その期間が長くなればなるほど、問題を予知すること自体がむずかしくなります。予知しなければならない範囲が広がり、予想外のできごとが起きる可能性が高まるからです。

例えば、2008年を思い起こしてください。金融危機により、突如として銀行が機能しなくなりました。そうした事態が起きることを、その3年前や5年前に、誰が予想できたでしょうか。そのため、ほとんどの企業が中期経営計画を変えざるをえなくなりました。当初の、企業成長を持続する計画を諦め、世界的な経済不況を乗り切る計画にシフトせざるをえなかったのです。当然、企業の業績も悪化しました。

ようやくその危機を脱したと思ったら、次に2011年に生じたのが東日本大震災です。日本国内の多くの工場が操業を停止せざるをえませんでした。日産自動車も、サプライチェーンが寸断され、しばらくはどうすることもできませんでした。予想もしない、たった3分間のできごとで、秩序のあった状態は、大混乱の状態に一変しました。

こうした予想もしない事態が起きた時、リーダーは何をしなければならないかというと、それまでの計画から離れ、いま一度、将来のことを見つめ直すことです。対応の仕方は、応急処置的な生やさしいものでなく、変革的なものでなければなりません。

では、変革的な対応をする時に、何が必要になるか。

これはきわめて重要な点ですが、必要になるのはファイティング・スピリットを見せることです。リーダーが失敗した時は、一度は周囲から理解してもらえるかもしれません。けれども、リーダーが弱点を見せているような姿は、一度たりとも許されないのです。

リーダーは、リーダーとなるために、それまで修練を積んで準備してきたはずであり、周囲はそのように思っています。予想外のことが起きた時は、その準備してきたことを発揮しなければならないときです。強い決意をもって厳しい状況に対応しなければなりません。あなた自身のファイティング・スピリットが、その背中を押してくれるはずです。

結果を出してこそ、人を動かすことができる

Q 「人の心を動かす」とよく言います。例えば、自分に賛同してくれなかった人が、賛同してくれるようなことです。ゴーンさんは、どのようなことをすれば、人の心を動かせるようになると思いますか。

人を動かすことができるのは、うまく話ができたからとか、格好いいスーツを着て礼儀正しく振る舞えたからではありません。結果を出せたからです。結果を出せば、周囲の人達の自分に向けられた懐疑や批判の心は、支持や協力の心へと変わっていきます。

1999年に私が日産自動車に来た時、社員の私に対する見方は総じて懐疑的なものでした。「この人は誰なのだ。何をしようとしているのだ。日本人でもなければ、日本語を話せるわけでもない。ルノーとかいう企業からやってきたらしいが、どんな会社なのだ」といった具合です。私はアウトサイダーであり、何も知られていませんでしたから、懐疑的な見方をされるのは当然です。「フランスのマスメディアは、この人のことを"コストカッター"と呼んでいるみたいだ。日本で成功などするものか」といった懐疑心を持たれていたのです。

そうした人々の心を変えたのは、結果を出せたからです。といってもすぐにではありません。1年目から良い成績ではありましたが、それだけでは人々の懐疑心は払拭されません。「引当金もかなりあるし、帳簿の修正もあるし、たぶんこの成績は続かないだろう」と思われていました。しかし、2年目、3年目、4年目と続くことで、みんな疑うことを諦めました。「この人、できる」と認めてくれたのです。

実際、1999年に私が日産に来てスピーチをした時は、「この人は素晴らしいリーダーだ」などと言ってくれた人は1人もいませんでした。周囲の人達がその人にリーダーシップを認識するのは、一貫して結果を出してからです。特に社内の人達は、実際に変革が起きていることを感じてこそ、その人のリーダーシップを認識するようになるのです。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載

※隔週火曜更新です。次回は5月16日(火)の予定です。

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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