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世界を変える「天才」たち 並外れた頭脳の秘密に迫る

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/5/7

 ジャズの即興演奏は、この創造のプロセスを示す興味深い事例になる。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の聴覚の専門家チャールズ・リムは、MRI(磁気共鳴画像法)装置内で演奏できる小型のキーボードを開発し、6人のジャズピアニストを対象に実験を行った。その結果、即興演奏中の脳の活動には注目すべき特徴が見られたという。自己表現にかかわる脳の内側の神経回路網が活発に働く一方で、注意の集中や自己監視にかかわる外側の神経回路網の活動は弱まったのだ。「まるで脳が、自分にダメ出しをする回路を断ち切ったかのようでした」とリムは言う。

■遺伝か? 育ちか?

 天才は生まれつきの資質か、それとも育てられるものなのかを探る研究者もいる。遺伝子研究の進歩で、今では人間の特徴を分子レベルで調べられるようになった。ここ数十年、知能や行動、さらには絶対音感のような特殊な資質に関わる遺伝子を特定する研究がさかんに行われている。モーツァルトからジャズ歌手のエラ・フィッツジェラルドまで、卓越した音楽家には絶対音感をもつとされる人が多く、その能力が彼らの業績の一翼を担っていると考えられる。

 ただ、知能については研究結果の利用に倫理的な懸念がつきまとううえ、何千もの遺伝子が少しずつ関与している可能性もあり、遺伝子の特定は一筋縄ではいきそうにない。また、遺伝的な資質だけで偉業を達成できるわけではなく、個々の潜在能力を引き出し、育てなければ、天才は生まれない。その役目を果たすのが、社会や文化、家庭環境だ。

 現代屈指の数学者の一人といわれるテレンス・タオは、幼少の頃から言葉と数字の理解力がずばぬけていた。そんな彼のために、両親は豊かな教育環境を整えた。本やおもちゃやゲームを与え、自分で遊び、学べるようにしたことで独創性と問題解決能力が育ったと、父親のビリーは考えている。幸いにもタオは、才能を伸ばしてくれる教育者にも恵まれ、7歳で高校の授業を受け、13歳で正式に大学生となり、21歳でカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授になった。「才能は重要だが、それをどう引き出し、育てるかがさらに大切だ」と、タオはブログに書いている。

 天才の源泉をひもとく旅に、終わりはないのかもしれない。謎は謎のままでいいという見方もある。そう、すべての謎が解けなくても、その過程で脳や遺伝子や思考方法についての理解が深まれば、少数の特殊な人だけでなく、誰もが能力を伸ばせるようになるだろう。旅の成果はそれで十分なのかもしれない。

(文 クローディア・カルブ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2017年5月号の記事を再構成]

[参考]ナショナル ジオグラフィック5月号では、ここに抜粋した特集「天才・その条件を探る」のほか、エジプト初の革命家 アクエンアテン/英国スコットランド 荒れ野の未来/インドのフラワーマン/戦火に苦しむ中央アフリカなどを掲載しています。

NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2017年 5月号 [雑誌]

著者 : ナショナル ジオグラフィック
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,010円 (税込み)


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