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リアルな存在感 ブリューゲルのバベルの塔

2017/4/19

 暗雲漂う空にそびえるブリューゲルの「バベルの塔」が24年ぶりに来日した。東京都美術館(東京・上野)で18日から始まった「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-」で公開されている。教科書などで1度は目にした人も多いだろうこの作品を中心に、初期ネーデルラント美術の世界を歩いた。

 展覧会では、15~16世紀のネーデルラント、現在のオランダからベルギーを中心とした地域で生まれた絵画や版画、それに彫刻など約90点が集められている。

 「バベルの塔」を描いたピートル・ブリューゲル1世は、当時を代表する画家の一人だ。その作品は細部にわたって描き込まれた立体的でリアルな描写と、鮮やかな色使いから、一見すると現代のコンピューターグラフィックスで作ったような印象すら受けるが、描かれたのは今から約450年前。当時、このような絵画が誕生した背景には、技術革新があった。

限られたスペースに描き込まれた約1400人

 東京都美術館の山村仁志学芸担当課長によると、「油絵の技法は15世紀前半にネーデルラントで確立し、その後ブリューゲルら、当時活躍した画家たちが発展させた。なめらかで透明感のある、細密な描写が可能になり、それがネーデルラント絵画に細密描画の特徴をもたらすことになった」。

東京都美術館(東京・上野)で4月18日から始まった「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-」の会場の様子

 「バベルの塔」はその壮大な構図から大作のような印象を受けるが、実際には縦約60センチ、横約75センチの木製のパネルに描かれていて、さほど大きくはない。その限られたスペースの中に、大きさ1~2ミリほどの人物が約1400人も描き込まれているという。

 目を凝らすと、塔を建設するために作業する人や、現場で生活する人、馬に乗った人などが細かく描き分けられている。

 細密な描写、というのは今回の展覧会の作品のキーワードだ。ブリューゲルに先だって活躍したネーデルラントの巨匠、ヒエロニムス・ボスの作品にも細部に暗示的な要素が多く描き込まれている。今回初来日した「放浪者」と「聖クリストフォロス」は現存する作品が少ないボスの傑作で、背景までじっくり見ることで楽しみが広がる。他にも、奇妙なモンスターがユーモラスに描かれた版画など、500年もの時を経てその精緻な描写に目を奪われる作品が並ぶ。

人間の発見的精神と新しい技術に対する高揚感

 絵画技術が発展し、傑作が次々に誕生した16世紀のネーデルラントは、どんな場所だったのか。「大航海時代を迎え、大都市だったアントワープには貿易が集まり、様々な産業が発展していった。17世紀は科学革命も起きて、技術や知識が飛躍的に発展した時代。21世紀に生きる私たちは、コンピューターなどによる技術革新を経験しているが、ブリューゲルも16世紀当時の技術革新を経験していたのではないか。油絵の技法を使って、当時の建築や滑車、船などの最先端技術がバベルの塔には描き込まれている。ある意味、現代の技術革新につながるような人間の発見的精神、新しい技術に対する高揚感などが表現されている」と山村氏は解説する。

 聖書に登場するバベルの塔は、神を恐れない人間の愚かさを描いた物語だ。ただ、ブリューゲルの作品は人間が調和し、力を合わせてかつてない塔の建設に挑む姿を描いたとする説もある。技術革新を目の当たりにしたブリューゲルならば、それもうなずける。「バベルの塔」に入り込んで、どんな人の姿を見つけられるのか。双眼鏡を持っていくことをおすすめしたい。

(映像報道部 槍田真希子)

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