待望のAndroid版VAIO Phone ファンには残念
戸田覚のデジモノ深掘りレポート
VAIOがソニーから独立してずいぶんたつ。経営は安定しているようだが、根っからのVAIOファンである僕としては、残念に思っているポイントも少なくない。会社規模が小さくなったので当たり前なのだが、新製品がほとんど登場しなくなったのは悲しい限りだ。そんな中で、スマートフォンの新モデル「VAIO Phone A」がリリースされた。
VAIO初のスマートフォンは、2015年3月にAndroidを搭載して登場した。ただ、このモデルではVAIOはデザイン監修をしただけで、製造・販売は日本通信が担当。VAIOのロゴこそ付いていたものの、製品としては見どころがほとんどなく、大変不評だった。
その後、2016年2月に法人向けのモデル「VAIO Phone Biz」としてWindows 10 Mobileを搭載したモデルが投入された。こちらはVAIOらしい金属ボディーを採用しており、製品を初めて見たときに「ああ、これがAndroid端末だったらなあ」と思ったのは僕だけではあるまい。
それからおよそ1年、Androidを搭載した「VAIO Phone A」がついに登場した。ボディーはVAIO Phone Bizと共通で、当時の要望がようやくかなえられた形になるのだが……。
VAIOブランドの高級感は失われた……
VAIO Phone Aの金属ボディーは、改めて見てもVAIOらしいと思う。シルバーの背面にロゴが彫り込まれているスタイルは、パソコンのVAIOでおなじみの意匠だ。ただ、シンプルなデザインには共感できるものの、本体を高く評価するかと聞かれると悩ましい。
まず、本体背面上下の樹脂製部品の境目は、見た目に段差が大きくて"取って付けた感"がするのが気になる。作り込みが甘いように感じて、VAIO好きの僕としては悔しくて仕方がない。「世界最薄」や「最軽量」を誇らしげにうたっていたVAIOブランドのパソコンを見てきた古いパソコンファンは、同様に感じるのではないか。
DSDSだが、ストレージが物足りない
VAIO Phone Aには、本体の構成にも残念なポイントがある。2016年2月発売のVAIO Phone Bizのボディーと同じだからとはいえ、指紋センサーを搭載していないのは、いくらなんでも時流から外れている。内蔵ストレージが16GBモデルしかないのも物足りない。
このモデルはDSDS(デュアルSIM・デュアルスタンバイ)に対応しているのが特徴だ。となれば、それが魅力で買った人は2枚のSIMを挿すだろう。だが、2つのうち一方のSIMカードスロットがmicroSDカードスロットと共用のため、SIMを2枚挿すとmicroSDカードが使えなくなり、結果、本体の16GBストレージだけでやり繰りしなければならなくなる。他社のDSDS対応スマホでもSIMを2枚挿すとmicroSDカードが使えなくなる機種は多いが、それらはだいたい32GB。VAIO Phone Aでは実用上ストレージが足りないと感じる。
液晶は5.5型と使い勝手の良い大きさで、情報を見るのには適している。しかし、狭額縁ではないので約77.0mmと幅が広く、持ちづらいと感じる人も多そうだ。この点は、VAIO Phone Bizが登場したころに比べてスマートフォンが大きく進化したポイントで、iPhone 7 Plusなどもそうなのだが、大画面で狭額縁ではないモデルはもう古い。
解像度がフルHDなのはいいとして、とても暗いのも悲しい。iPhoneと比べると明らかに暗いのだ。性能面では妥協することのなかったVIAOらしからぬ部分だと感じる。
VAIO Phone Aの最大の魅力は価格
ストレージは不足気味、指紋センサーもなく、ボディーのつくり込みが甘くても、直販で2万6784円という価格を考えれば十分だ。加えて、VAIOのパソコン並みという品質試験や、国内工場で仕上げ・全数チェックも実施しているという。実は、それこそが最大の魅力なのだと思う。VAIO Phone Aは安さを追求したスマートフォンなのだ。
それだけに、同社のサイトにある「ワンランク上」「徹底した作り込み」といったうたい文句はむなしく聞こえる。確かに、かつての"VAIO"はそんなブランドだった。パソコンの全盛期は「Macに対抗できるのはVAIOだけだ」と言われたほど、プレミアムな製品ばかりをそろえていた。そんな時代を知る僕や古くからのユーザーは「VAIOの"ワンランク上"はこれじゃない」とよく知っているのだ。
僕は、この製品がVAIOブランドでなくても、お手頃なモデルとして評価したと思う。多少の欠点を価格で妥協して買うのもアリだと思うからだ。VAIOブランドのスマホであることに魅力を感じる人、安くても品質に安心感があるスマホを求める人にはお薦めできる。ただ、VAIOファンの僕としては、VAIOのスマホにはもっと飛躍を期待したいのだ。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2017年4月6日付の記事を再構成]
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