「お手本」女性の輩出 「割り当て制」の議論、本気で
ダイバーシティ進化論(出口治明)
歴史上の優れた女性リーダーの多くは、ロールモデルを持つ。中国史上唯一の女帝・武則天は、性別を問わない実力主義で馮大后など多くの女性が活躍した拓跋国家の風土の中に生まれた。ロシア帝国全盛期の女帝エカチェリーナ二世は、先に皇位に就いたピョートル大帝の娘・エリザヴェータに多くを学んだ。いつの時代も人が成長するには、ロールモデルが必要だ。
翻って今の日本。管理職に占める女性の割合はまだ1割程度で、ロールモデルが少なすぎる。世界経済フォーラムが算出する男女平等ランキングでは144カ国中111位。世界にかなり後れをとっている。
働き方も問題だ。長時間労働に加え、家事や育児負担が女性に偏る現状では超ショートスリーパーで体力のある女性しか輝けない。
一方で、日本は世界のどの国よりも女性に活躍してもらう必要がある。高齢化が世界一進んでいるからだ。介護や医療、年金などの社会保障支出は膨らみ続け、今年も国の予算ベースで5000億円程度増えた。貧しくなるのが嫌なら多様な人材の活躍を促し経済を成長させるしかない。
産業構造の面からも女性活躍は重要だ。わが国の産業構造は製造業からサービス業へと比重が大きくシフトしている。サービスの主たる消費者は女性。成長には、女性の力が不可欠だ。
そのために何をすべきか。ヒントは高齢化が世界で最初に進んだ欧州にある。高齢化や経済危機を乗り越えるには人口の半分を占める女性の活躍が不可欠だと気づいた欧州の国々は、企業の役員の一定割合を女性とするなどのクオータ(割り当て)制を導入した。ロールモデルの輩出を「仕組み化」したのだ。
クオータ制の普及について、日本のある財界幹部が「欧州の政治家は女性に弱いなあ」と言ったと聞き、僕はあぜんとした。世界一高齢化が進み、女性の登用が遅れている日本は、本来どこよりも厳しいクオータ制を導入し、ロールモデルをどんどんつくり出し女性の活躍を促さなくてはならない。その現実を前に、日本の政財界のリーダーの感覚はあまりにも鈍い。
女性活躍推進法の施行から1年がたったが、状況は変わっていない。時間を無駄にしている余裕はない。ロールモデル輩出の仕組みづくりと長時間労働の解消に今本気で取り組まなければ、日本は時代の変化に取り残されてしまうだけだ。
1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を開業し社長に就任。13年から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2017年4月17日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界