日産ゴーン氏が語る 「強いリーダー、CEOとは?」
カルロス・ゴーン熱血教室(2)
写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.
カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。2回目は「強いリーダー、CEOとは?」について、ゴーン氏が答えます。
強いリーダー、CEOとは?
CEOは短期的パフォーマンスを高めながら、遠くも見通さなければならない
素晴らしい指摘だと思います。おっしゃるとおり、強いCEOは、短期的にはパフォーマンスを高めながらも、同時に、長期的には未来の会社のあり方も見通していなければならないものです。
短期的な見方と長期的な見方についての最も良い例が、電気自動車(EV)をめぐる話です。
私どもは2006年に、EVを世に出すと発表しました。数千億円を投資して、EVを販売すると公言したのです。そうしたら、みんなに笑われました。「航続距離が短い」「充電インフラがない」と、いろいろなことを言われました。
けれども、私どもはぶれることなく、2010年にEVの販売を始めました。発表から10年が経って、状況はどうでしょう。EVは、社会に必要なものと認識されています。10年前に発表したことがまちがいではなかったことが、今、確かなものになっています。
強いCEOというとき、その条件として、短期的な業績を上げられることがあります。けれども、短期的な業績を上げさえすればよいというものではありません。それだけでは会社が持続的に成長しないからです。短期的なパフォーマンスを高めながらも、長期的な視野を持って、自分たちの会社の未来にとって何が重要になるかを考えなければならないのです。
日産自動車の中国市場への進出についても、2001年頃には社内で反対論が多くありました。当時、中国市場で3万台ぐらい売れればよいといった見方が強く、とても利益が出るような事業には思われていませんでした。けれども、それから15年後の2016年には「中国で130万台の自動車を販売します」ということを発表しました。
2001年の時点で、15年後に中国で130万台もの日産車が販売されることなど、誰にも想像できませんでした。けれども、それを感じることはできていました。「今、中国で何かが起きている」と。だから、いろいろな人を説得して、長期的に2016年の中国がどうなっているかを見通して、2002年に中国で自動車を販売することを決定したのです。困難な投資ばかりでしたが、先を見通すことはできていました。
最近は、CEOは長期的な視野を持ちづらくなったという問題が出てきています。例えば、もの言う株主の多くは、短期的な結果ばかりに注目し、その会社の長期的な成長といったことはどうでもよいと考えています。最近のCEOは、こうした種類の重圧には臆病になっていると思います。
実績があるCEOだからこそ打って出られることもある
CEOとしての実績を築いたからこそ、打って出られることがあるのも事実です。
例えば、EVを世に出すと発表したのは、2006年でした。では、1990年にEVを世に出すということを私は発表できたかというと、それはできなかったろうと思います。2002年でも、まだできなかったと思います。
2006年になってEVを世に出すと発表できたのは、日産自動車のCEOとして7年間の実績を作っていたからです。このCEOは実績のある強力な人物であると、社内外の人々から認められていれば、そのCEOは未来のことに対して、強力に打って出ることができるようになります。
いつか自分がCEOを退任して、新たなCEOが就任した際には、最初の2、3年間は「CEOの経験が浅い」という理由で脆弱性を抱えることになると思います。もの言う株主も、その脆弱な時期が来ることを分かっています。そういう時に会社を攻撃するのです。このことについては、時々、私も心配をしているところです。
※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載
※隔週火曜更新です。次回は5月2日(火)の予定です。