「泣き歌の貴公子」林部智史 バラードに自分を映す
2016年、透き通ったクリスタルボイスで会いたい人への思いを切なく歌ったデビューシングル『あいたい』が、幅広い層から支持されロングヒット。同年の「日本有線大賞」と「日本レコード大賞」で新人賞を受賞した"泣き歌の貴公子"こと林部智史。28歳の彼がこれまでに歩んできた人生は、挫折との戦いだった。
10代で高校受験の失敗や、うつ病を経験。地元・山形を離れ、放浪の旅を続けるなかで出会ったギタリストに、幼少のころから好きで歌っていた歌声を絶賛され、歌手になることを目指す。13年にEXILE ATSUSHIらを輩出した音楽学校に入学し、新聞奨学生の仕事をこなしながら首席で卒業するが、なかなか道は開けなかった。半ば諦めの境地で挑んだ、カラオケ採点番組『THEカラオケ★バトル』(テレビ東京系)でも、高評価を受けながらも勝てない日々を重ねた。しかし2年の月日をかけて念願の年間チャンピオンを獲得。それをきっかけに、昨年2月に自らの詞による『あいたい』でメジャーデビューを果たした。
2ndシングル『晴れた日に、空を見上げて』は前作に引き続き、苦労を重ねてきた彼の声が寄り添うように心に響くバラード曲だが、前作とは大きく違っているという。
「『あいたい』は、それまでに歌ったことのない歌謡曲に近いメロディーだったので、初めて歌うジャンルに手探りの状態で挑んだ楽曲でした。一方、今回は『THEカラオケ★バトル』時代から慣れ親しんできたJ-POPなので、素直に歌えて等身大の自分が出せました」
また、今作は1月期の連ドラ『就活家族~きっと、うまくいく~』(テレビ朝日系)の主題歌で、作詞家・山本加津彦と共作で書き下ろした。家族全員が就活が必要となる状況に陥ってしまうストーリーなだけに、頑張る彼らを応援するかのような、前向きな歌詞が印象的だ。
「タイトルをはじめ、歌詞に空というフレーズを何度も入れました。つらいときには、僕にとって常に小さな幸せを与えてくれる空のような存在を、みなさんにも見つけてほしいという意味を込めています」
今後は、自分に求められるような曲であれば、どんなジャンルでも歌っていきたいと考えているそうだ。そして、「1番大切にしたいのは、誰よりも気持ちをリスナーに届けられる歌を追求していくこと」と語る。それはデビューのきっかけとなった『THEカラオケ★バトル』が機械採点のため、高得点を出すためにはビブラートまで完璧に合わせる必要があり、すべての感情を解放して歌うことができなかったことへの反動があるのだという。
数々の経験を重ねるなかで彼が培ってきた歌声は、今後さらに多くの人々に響いていくだろう。
(「日経エンタテインメント!」3月号の記事を再構成。敬称略、文・中桐基善 写真・藤本和史)
[日経MJ2017年3月24日付]
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