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10年で570万円節税も 「コツコツ生前贈与」は効果大

2017/4/16

 筧夫婦と娘の恵は久しぶりに一緒に映画を見にでかけました。恵が見たかった話題の新作ミュージカルです。帰りのレストランで、映画の感想を話そうとした恵に良男は突然、相続税の話をし始めました。どうも相続税の心配が頭を離れないようです。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 良男の妻。ファイナンシャルプランナー資格を持ち、家計について相談業務を手掛ける。 筧良男(かけい・よしお、52=中) 機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。最近、親の相続が気になり始めた。 筧恵(かけい・めぐみ、25) 娘。旅行会社に勤める社会人3年目。自分磨きと"コスパ"にはかなりこだわっている。

  せっかくの映画の後に急に相続の話をしないでよ。気分が台無しだわ。

 良男 将来の相続税が気になって、映画に集中できなかったんだ。相続税を少しでも減らすにはどうすればいいかな。

 幸子 仕方がないからお答えするわ。まず考えるべきはコツコツ贈与。贈与税にはもらう人1人当たり年110万円の非課税枠があるの。これを活用して贈与するのが「暦年贈与」。暦年贈与を続けて相続財産を小さくしていくの。

 良男 どれくらいの効果があるのかな。

 幸子 財産が1億5000万円で、非課税枠より少し多めの120万円を10年間、子供3人分で計3600万円を結果として贈与したケースで考えるわね。計算は複雑なので省略するけど、何もしない場合に比べ相続税は600万円も減らせるの。

  でも110万円を超えている10万円分には毎年贈与税がかかるでしょ?

 幸子 そうね。贈与税率は課税対象額によって異なるけど、インターネットとかで簡単に調べられるわ。ちなみに10万円なら税率は10%だから1万円ね。3人の10年分の贈与税の合計額は30万円。相続税が減った分との差し引きで、税額は570万円減らせるわ。

 良男 結構効果があるけど、一度に何百万円か贈与するほうが早いような気がする。

 幸子 贈与税は金額が多いほど税率が高くなる仕組みだから、一度に多額の贈与をすると税率が上がってかえって損をすることもあるの。なるべく早く始めて、少額ずつ長く続けるのが効果的とされているわ。

 良男 すでに高齢になっていて長期間できないときは?

 幸子 暦年贈与のいいところは相続人に限らず誰でも対象にできること。税理士の柴原一さんは「贈与する相手を増やすことで、高齢でもある程度対応できる」と話しているわ。

 良男 例えば子供が2人いて、将来それぞれに結婚相手と子供が2人ずつできたら、全員を対象にすると計8人か。120万円ずつでも1年で960万円、3年で2880万円の生前贈与ができることになるな。

 幸子 でも、やっぱりなるべく早い時期からやっておくほうが確実に節税できるわね。

  注意点は?

 幸子 大事なのはあげる方ともらう方がともに合意していること。子や孫の名義の預金口座に黙ってお金を入れたとしても、合意がないから贈与は不成立で税務署が認めてくれず、相続税が高くなってしまうわ。

  合意をどう証明するの?

 幸子 税理士の福田浩彦さんによると、「非課税枠よりちょっと多めに贈与して、もらった方が贈与税を申告することで、合意があった証拠にする人もいる」とのこと。さっきの例のように、少し多めの120万円前後を贈与している人も結構いるみたい。

 良男 ほかにも最近はいろいろな制度があるみたいだな。

 幸子 住宅資金や教育資金を非課税で一括贈与できる仕組みができているの。住宅資金は今なら優良住宅は1200万円まで、教育資金は1500万円まで非課税で贈与できる。暦年贈与と併用できるので、110万円を加えた額まで非課税になるわね。それぞれ対象となる子や孫などには年齢制限があるわ。

  なんだか贈与の大盤振る舞いみたいね。

 幸子 もともと子や孫の教育資金や結婚資金をその都度贈与するのは非課税なの。だから必ずしもこうした仕組みを使う必要はないわ。でも柴原さんは「教育資金贈与の場合は贈与した人が亡くなったときまだ残高があっても、相続財産には足し戻されない。その都度あげる場合は必要額を超える分は贈与税がかかるのに比べて、相続税対策として有効」と話しているわ。

  最近、相続対策として貸家を建てる人が多いそうね。あれはどういうこと?

 幸子 現金に比べて相続の際の評価額が低い不動産は、貸家にするとさらに評価額を下げられるの。

 良男 えーと、前に土地は路線価で評価されるので時価の8割くらいって聞いたな。

 幸子 人に貸すと、路線価×(1―借地権割合×借家権割合)という計算式でさらに評価額を減らしてくれるのよ。借地権割合は場所によって違うけど、仮に6割として、借家権割合は原則3割だから、路線価の82%に圧縮できるわね。

  建物の固定資産税評価額も新築なら建築費の4~6割って前に聞いたわ。

 幸子 人に貸すと固定資産税評価額×(1―借家権割合)で評価額を圧縮できるわ。

 良男 父親の家を相続したらアパートにする手もあるな。

 幸子 ただしかなり慎重に考えないとね。超低金利や相続税対策でアパートを建てる人が増えていて、地域によっては空室が目だち始めているわ。相続節税にはなったけど、毎月の収支が大赤字ということになれば大損害よね。福田さんは「よほど立地のいい場所でなければすすめない」と話していたわ。

■過度なタワマン節税はリスク
 野村資産承継研究所理事長 品川芳宣さん
 タワーマンション住戸の固定資産税額は従来、同じ建物なら面積に応じて一律。相続税も同じ評価を使うので、眺望のよい高層階では時価は高い割に相続時の評価額は極端に低く、節税に使われてきました。このため新築タワマンの高層階の固定資産税額は来年以降、低層階より若干高くされます。さらに相続時の評価が現在、固定資産税の評価の1倍なのを、高層階は倍率を上げる議論も一時されたようですが、目先はなさそうだと見ています。固定資産税額の若干の上昇だけなら、タワマン節税が一気にしぼむことはないでしょう。
 しかし評価が著しく不適当な場合、国税庁長官の指示を受け、税務署が相続税評価額を時価などで申告するよう求めることができる規定もあります。行きすぎたタワマン節税にはリスクがあります。
(聞き手は編集委員 田村正之)

[日本経済新聞夕刊2017年4月12日付]

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