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中古物件、買おうとしたら… 「仮差し押さえ」の登記 弁護士 志賀剛一

2017/4/13

 

Case8:中古マンションの購入を検討しています。前回の記事「目当ての中古物件、割安の理由を登記簿で調べたい」のアドバイスに従って「登記事項証明書」を自分で取ってみましたが、前の所有者の抵当権がついているばかりか、別の債権者による「仮差し押さえ」という登記があります。仲介業者は「抵当権や仮差し押さえ登記の抹消と、所有権の移転を同時にするので大丈夫」と言っていますが、本来なら売買契約より前に、売り主は抵当権や仮差し押さえの登記を消すべきではないでしょうか。心配になって購入を考え直そうと思っています。

■中古不動産、多くの関係者が一堂に会して取引

 売買契約を結ぶ前に、売り主や債務者の抵当権などがすべて抹消され、登記が「真っさら」な状態であればそれに越したことはありません。しかし中古不動産の取引では契約を結ぶ際、そのような登記が残っている状態がしばしばあります。

 では、そのような中古不動産の契約と決済はどのように行われるでしょうか。

 まず、仲介業者の宅地建物取引主任者が重要事項を説明し、買い主が確認したうえで、売買契約を結びます。契約書にはほとんどの場合、所有権の移転時期を「売買代金の全額を支払った時、所有権が移転する」と定めています。実際は売買契約を結ぶ時には調印と手付金の授受のみが行われ、残りの代金は後日(通常は1カ月程度先に)支払う取り決めになっていることが多く、契約で定められた決済日に残りの代金の決済と所有権移転の登記を行うのが一般的です。

 残りの代金の決済は通常、買い主が利用する金融機関が行います。買い主は住宅ローンを利用することが多く、金融機関や保証会社は融資と同時に、買い主に所有権が移転した不動産に間髪を入れず抵当権を設定します。

 この決済には売り主、買い主、双方の仲介業者、司法書士、さらに不動産に担保を設定している担保権者、物件に差し押さえや仮差し押さえが入っている場合にはその債権者の代理人などなど、多くの関係者が一堂に会して取引を行います。

■仮差し押さえを取り下げてもらうには

 売り主に住宅ローンなどの債務が残っている場合、売り主の信用保証会社の抵当権もまだ設定されたままの状態です。住宅金融支援機構などを除き、通常は銀行本体ではなく、系列の保証会社が抵当権者として登記されています。売り主は買い主から受け取る代金で、借入先の金融機関へ残りの債務を返済し、信用保証会社に抵当権を抹消してもらわなければなりません。買い主は金融機関からの借入金で、売り主への代金を支払います。買い主側の金融機関は債権保全のために、直ちに購入物件に信用保証の抵当権を設定しなければなりません。

 取引の流れの実際は、おおむね以下のようになります。

 売り主側の金融機関が代金の振り込みを確認した後、司法書士が売り主の信用保証の抵当権を抹消するため書類一式を交付します。なお、振り込みが確認できないと、金融機関の担当者は抵当権抹消の書類を交付しません。決済日が月末など金融機関が多忙な日に設定されると、振り込み確認がなかなか行われず、時間がかかることがあります。決済日の設定がある程度、自由にできるのであれば、こういう日は避けた方が無難です。

 さらに、ご質問のケースで厄介なのは、物件に仮差し押さえをしている債権者がいることです。仮差し押さえの登記は「嘱託登記」といい、裁判所を通じて行われるものであるため、基本的には仮差し押さえを取り下げてもらわなければ抹消になりません。しかし、債権者はタダで取り下げてくれることは通常ありえません。あらかじめ売り主が債権者と交渉し、一定の金額(債権額の満額ではないことが多い)を支払って仮差し押さえを取り下げてもらう合意を取り付けておくのです。

 債権者は金融機関の支払いを確認した後、仮差し押さえの取り下げ書を司法書士に交付するか、あるいは決済終了後に自ら裁判所へ出向いて取り下げを行います。買い主や買い主側の金融機関で不安な場合は、裁判所まで債権者に同行して取り下げ書の提出を確認する場合もあります。いずれにしても、仮差し押さえの登記が抹消されるのは、裁判所から法務局に書類が行った後になるので、多少時間がずれることになります。

 ここで初めて契約書上、「物件の抵当権、賃借権などの一切の権利」がなくなったものと評価され、売り主から買い主に所有権移転の登記が行われます。その後、必要書類を携えた司法書士が法務局に向かい、手続きをします。

■不安ならば弁護士に相談も

 不動産の決済は司法書士への信頼が基礎となり、新たに担保を設定する金融機関が日ごろから依頼している司法書士を指名するケースが多いです。前の抵当権や仮差し押さえの負担のない所有権を買い主が取得することで、金融機関と買い主の利益が一致しますので、買い主はこの司法書士にお任せしておけば心配はないと思われます。不安ならば弁護士に相談し、場合によっては取引に立ち会ってくれるよう依頼することも検討されるとよいでしょう。

志賀剛一
 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に、企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。

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