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異国の地で母国語継承する難しさ 「文化」切り離せず マセソン美季さんのパラフレーズ

2017/4/13 日本経済新聞 朝刊

 私が住むカナダは、英語とフランス語を公用語とし、バイリンガル教育の実験や研究で先駆的な国として知られる。オンタリオ州では幼稚園から英語とフランス語を学ぶので、学校で高度で実践的なフランス語を身につけることが可能だ。習得しようとする言語で語学以外の教科の学習をする、「イマージョン方式」と呼ばれる外国語教育プログラム発祥の地でもある。

 「継承語教育モデル」もカナダで生まれた。「継承語」とは、その言葉を主要言語としない国において、自らの出身民族の母語のことだ。カナダ人で英語を話す夫と、日本人で日本語を話す私の間に生まれた子どもたちが、カナダで暮らす場合は日本語が継承語。日本で暮らす場合は、英語が継承語となる。

 継承語教育は、少数言語を話す家庭の子どもの母語習得や文化理解を補うために活用されている。話す言葉が少数派でも恥じるべきことではなく、むしろ大切にすべきもの。堂々と言語も文化も継承してほしい。違いがある人たちがいて、様々な文化が混在しているからこそ、社会が豊かになる。そんなメッセージがこのモデルに込められている。日本でもよく聞かれるようになった「ダイバーシティー(多様性)」の感覚が、言語教育でも養われる。

 ただ、日本語を継承するのはそう簡単ではない。桜が散る様子を「ひらひら」以外の擬態語で表現させようと、我が家で子どもたちと話をした時のこと。「はらはら」と言ったのは弟。正解ではあるけれど、彼の頭の中には、小さく軽いものが舞い降りる様子ではなく、高い場所から意を決して飛び降りる、勇ましい桜の花びらが「はらはらドキドキ」している心情が浮かんでいたようだ。一方の兄の答えは「ふらふら」と「へらへら」。やることがない桜なら「ふらふら」、ふざけている桜なら「へらへら」だそう。

 継承日本語教育の研修会に参加した際、在カナダ日本大使館の職員が「日本語という言語だけでなく、日本の文化や、日本人の心も継承していただきたい」と言っていた。全くその通りなのだが、これがなかなか難しい。

マセソン美季
 1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジスピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。

〔日本経済新聞2017年4月13日付朝刊〕

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