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上から目線? 母の認知症で気付いた「不幸せな介護」

ドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』監督インタビュー(2)

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

認知症の母との日常を記録したドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』(2012年製作)のヒットに続き、続編『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』を2014年に公開した映画監督の関口祐加さんは、次回作『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』の上映に向けて活動している。前回記事「『毎日がアルツハイマー』主演は母 娘が撮る自然な姿」に続き、認知症と向き合ってきた関口さんが考える理想的な認知症ケアについて話を伺った。

3年半お風呂に入らなかった母、そのときどうしたか

――『毎日がアルツハイマー』を製作していく中で、関口監督が気づいた良い介護、悪い介護とは何か教えてください。

大切なのは本人の気持ちを尊重することだと思います。物忘れが進んで今までできたことができなくなっている人に、「どうしてこんなこともできないの?」と言っても、できないものはできないですよね。でも、多くの人が、親はこうあるべきだ、といった「私」の価値観を押し付け、できなくなったことを受け入れるのが難しい。そういうのを私は「一人称介護」と呼んでいるのですが、これではみんなが不幸になってしまいます。

嫌がる親に脳トレを強要したり、「お母さんのためにしているのに、なぜ言うことを聞いてくれないの」と怒るなど、自分の価値観に当てはまらない相手の行動に対してイライラするのは自分の健康によくないと思います。一歩引いて、介護をする相手は今何を必要としているんだろうかと考える「三人称介護」の考え方が重要です。そしてやるべきことが分かったら、今度は相手がその気になるよう演出を心がける。介護は、創意工夫の連続です。私は四六時中、演出のアイデアを考えていますよ。

私の母の場合、結局、3年半もお風呂に入れなかったのですが、そこには母なりの理由があるんだと考えました。無理やりお風呂に入れても根本的な問題は解決しません。まず母の気持ちを想像してみました。母はシャイで、温泉に行っても大浴場ではなく内風呂に入るような人です。娘の私でも一緒に入浴した記憶はありません。そんな母の入浴をかなえるにはどうすればいいのか。じつは母は若い頃、看護師になりたかったのですが、母の父親に反対されて、その夢を諦めてしまった。以前、そんな話をしてくれたので「母をお風呂に入れることができるのは看護師さんしかいない」と思いつきました。それで訪問看護を頼むことにした。これが私の言う演出です。

――ただ、訪問看護を頼もうとすると、新たな問題が出てきたのですよね。

そうなんです。じつは訪問看護を頼むには、医師の「指示書」が必要です。当時、母は介護認定3でした。地元の母の主治医に相談したら、「お母さんはまだ自分で寝起きもできるし、指示書はちょっと難しい」と言われました。「訪問看護は一般的に寝たきりの人に必要だから」と……。ちょうどその頃、以前テレビで共演させていただいた国立長寿医療研究センターの遠藤英俊先生が自宅に母を診に来てくださったので、すぐに相談して指示書を書いていただきました。

日本の介護が厳しいのは、例えば「訪問看護が受けられるのは寝たきりの人」というように杓子(しゃくし)定規な対応をされることがあるだけでなく、身体的な問題を中心に考えられていて、心の問題が置いていかれていることだと思います。本当に必要なのは、「風呂に入らない」という母の行動の意味を考えて、それに対してどう仕掛けて動いたら母がその気になってくれるのか、計画を立てて実行することなのですが、壁になるのは案外、介護業界や医師たちだったりしますね。でも、私は壁が高ければ高いほどワクワクして燃えます。簡単には諦めない。そのことが母をケアしていくうえで役立っているのかなと思います。

もっと考えたい 介護される側の気持ち

――関口さんは、「介護」という言葉にも違和感を覚えるということですが。

じつは私は介護という言葉が嫌いです。「介入して護(まも)る」と書きますよね。介護する側が主体で、「上から目線」のように感じます。でも、母は、守ってもらいたいとは思っていない。そもそも自分が認知症だと思っていないことが多い。それなのに、例えば、デイサービスではトイレに行くと、スタッフがついてくる。母は「この人、なんでトイレまでついてくるの? 気持ち悪い」ってなるんですよ。それって普通の感覚でしょう?

トイレに入るのをいちいち他人に手伝ってもらいたくないし、お風呂に入っているときに洋服を着ている人がいたらおかしい。介護する人には、介護される側がそういうふうに思っているかもしれないというイマジネーションが大切です。「してあげるのが仕事」「かわいそうだから、してあげないと」と考える一方的な「上から目線」の態度が一番ダメだと思います。

――関口監督はそういう日本の認知症ケアに疑問を感じて、『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』で、イギリス(英国)のパーソン・センタード・ケアを取材されたわけですね?

イギリスに「パーソン・センタード・ケア(P.C.C.=認知症の本人を尊重するケア)」という認知症ケアの考え方があると知り、提唱者である心理学者トム・キットウッド教授(故人)の原書を読んだのが始まりです。その後、イギリスのアングリア・ラスキン大学と交流するようになり、イギリス東部ノーリッチに「ハマートンコート認知症ケア・アカデミー」という、パーソン・センタード・ケアを取り入れたすごい認知症医療施設があると教えてもらい、これは行きたいと思ったのです。

英国発の"人"にスポットを当てた認知症ケアとは?

――日本では聞き慣れない認知症ケアですが、パーソン・センタード・ケアとは、どのようなものですか?

パーソン・センタード・ケアは、認知症の人を一人の"人"として尊重し、その人の視点や立場に立って理解し、個別なケアを行おうとする認知症ケアの考え方です。キットウッド教授が提唱し、英国では、NSF(National Service Framework for elder people 2001:高齢者サービスを行う際の国家基準2001年版)に取り入れられています。

パーソン・センタード・ケアの観点から見れば、主役はケアをする「私」ではなく「母」です。常に母の視点で世界を見ようとし、そこから何をどうすればいいか導き出すのです。

――具体的に、ハマートンコート認知症ケア・アカデミーではどのようなケアをしているのですか?

ハマートンコート認知症ケア・アカデミーは、認知症ER(緊急救命室)として機能している施設で、ここの入所者は、主に認知症の最終ステージにいる人たちですが、ついのすみかではありません。彼らは「パーソン・センタード・ケア」によるケア・マッピングを作成するために仮入所しています。

ケア・マッピングとは、この人には、こういうケアが必要ですよ、こういうときにはこういうふうに対応するといいですよ、というようなことを見つけ出す作業ですね。例えば、私が認知症ケア・アカデミーのワークショップに参加したときの例です。元陸軍大将で大変気難しく、特に女性スタッフに対して暴言を吐く男性がいました。スタッフは、すぐにその男性が軍隊では部下から「イエス・サー」と言われて過ごしてきたことを理解します。そして、彼を世話する人は若い男性だけにして、「イエス・サー」と部下役をするなどの配慮をしたら、それまであった暴言などの周辺症状が全く出なくなったというのです。

ハマートンコート認知症ケア・アカデミー施設長で認知症専門精神科医であるヒューゴ・デ・ウァール博士は、「認知症という病気だけが同じで、あとは十人十色」だと言い切っています。それぞれに合ったケア・マッピングをつくることが重要というわけです。

母の死を意識するようになって……

――現在、『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』の製作をしているそうですが、どのような映画になる予定ですか?

『毎日がアルツハイマー2』の製作が終わって、さらに認知症ケアを突き詰めていこうかなと考えていた矢先、2014年の夏から2015年の冬にかけて、母が脳の虚血症の発作で4回も倒れ、意識不明になり救急搬送されたんです。このことをきっかけに「看取り(みとり)」について考えるようになりました。それで、認知症の母の人生の最終章にどう向き合えばよいかということが、おのずとテーマになり、また、介護者である私が母の命を預かる責任の重さを痛感するようになりました。

本人は認知症のおかげで死の恐怖がなくなるかもしれませんが、介護をしている私が、最終的には母が死ぬことをどう引き受ければいいのか。ハッピーエンディングな死は可能なのか。介護をしてきた人たちから、最後にうまく死なせてあげられなかったという話をよく聞きます。

例えば私の友人は、医者に勧められるまま、認知症の父親に胃ろうを造設したのですが、不快感がずっと続いていたようで、見ていてかわいそうだったと言っていました。最期は大きな脳梗塞を起こして亡くなったのですが、家族間で「胃ろう」への考え方の違いもあり、後にしこりが残ったようです。認知症の人の看取りの難しさは、医療的決断全てを家族が引き受けることにあると思います。医師の勧めで家族が良かれと思って決断をしても、本人にはそうでないことがある。家族間の意思統一も難しい中で、看取りの後に「果たして、これでよかったのだろうか」と自責の念にさいなまれる方も多くいらっしゃるようです。

ファイナルは、認知症と看取りと死という普遍的なテーマについて掘り下げています。重いテーマですが、「毎アル」シリーズ特有の笑いとユーモアの精神満載の作品になる予定なので、楽しみにしていてください。

関口祐加さん
 映画監督。1957 年横浜市生まれ。1981年日本の大学を卒業後、オーストラリアに渡り、1989 年『戦場の女たち』で監督デビュー、2007 年に『THE ダイエット!』発表。2009年9月より認知症の疑いがあった母親の撮影を始め、YouTube に投稿開始。2010年1月、介護のため29年ぶりに帰国、動画をまとめた映画『毎日がアルツハイマー』を2012年7月に公開。現在、認知症の母の看とりをテーマに『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル』を製作中で、2017年5月31日まで資金調達のためクラウドファンディングを実施している。https://motion-gallery.net/projects/maiaru_final

(ライター 伊藤左知子)

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