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カリスマの直言

海外ファンドが問う 統治改革の本気度(安東泰志) ニューホライズンキャピタル会長兼社長

2017/4/17

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「コーポレートガバナンス・コードでは株主の実質的な平等性の確保が求められている」

 近年、海外投資家から日本株に対する関心が高まった理由の一つは、企業統治の指針である「コーポレートガバナンス・コード」が日本でも導入され、これまでの日本企業に多かった「内輪の論理」ではなく、株主を向いた経営が行なわれることへの期待であった。2015年6月の制度導入から2年がたとうとしているが、現実はどうだろうか。

 株式市場では今、パナソニックによるパナホームの完全子会社化計画を巡る海外ヘッジファンドとの対立が話題となっている。順を追って説明すると、パナソニックは昨年12月20日、議決権の54%を保有するパナホームを株式交換によって完全子会社化すると発表した。今年6月の株主総会で承認が得られれば、パナホームは7月27日に上場廃止となり、8月1日にパナホーム株1株に対してパナソニック株0.8株を割り当てる株式交換を行うとした。これは発表時のパナホームの株価に直すと、約933円で少数株主(パナソニック以外の株主)から株式を買い取ることと同義であり、それは直前の株価に約7%のプレミアムを乗せた水準だった。

■親会社による完全子会社計画にヘッジファンドが異議

 これに対し、香港に拠点を置くヘッジファンド、オアシス・マネジメントが異議を唱えた。オアシスは株式交換の決定に問題があると指摘したうえで、適正な比率に見直さなければ法的手段に訴えるとの書簡を送った。抗議の意志を示すためか、オアシスはパナホーム株を段階的に買い増しており、4月3日に関東財務局に提出した大量保有報告書によると、発行済み株式の約9%を保有する。

 オアシスは何に不満なのだろうか。オアシスの最高投資責任者、セス・フィッシャー氏は3月5日付の日経ヴェリタスのインタビューで「パナホームは700億円超の現金をパナソニックに吸い上げられ、現金が有効活用されておらず、株価低迷の要因となっていた。今回の株式交換はこの低評価をもとに若干のプレミアムをのせて比率を決めている。これは少数株主の持つ価値がパナソニックによって奪い取られたようなものだ」「コーポレートガバナンス・コードは少数株主や外国人株主の実質的な平等性を確保するよう十分な配慮を求めている。今回の株式交換は公正なプロセスではなく、企業統治指針に違反している」――などと述べている。

 オアシスは(1)株式交換比率を変更しない場合は1株670円の特別配当の実施、または(2)1株1050円でのパナホーム株の買い取りを会社側に申し入れたとされる。

 筆者は買収ファンドの運営をしているので、株価算定の妥当性については独自の見解を持つが、ここではそれに立ち入らない。また、筆者は比較的短期の株式取引で利ざやを得るヘッジファンドを特段支持しているわけでもない。それでも、ヘッジファンドが指摘するような問題に、取締役会が真摯に向き合うことが日本のコーポレートガバナンスの信頼性を高めることだけは間違いないだろう。

■利益相反の問題はらむ「親子上場」

 そもそも、パナソニックとパナホームは、いわゆる「親子上場」である。親子上場の場合、一般的に子会社の取締役は、親会社の利益に沿うのか、少数株主の利益に沿うのかという利益相反の問題に直面する。今回のように、子会社の株式を親会社が買い取るというのは利益相反の代表例だ。すなわち、親会社としては子会社株を安く買いたいのに対し、子会社の少数株主からすれば当然高く売りたいからだ。

 もちろん、パナソニックとパナホームともそのことは十分に理解している。そこで、両社の利害から独立した第三者機関からの株価算定書と、同じく独立した法律事務所から助言を得たとしている。さらにパナホームは、パナソニックから派遣されている役員を除いた社外取締役・社外監査役・外部有識者からなる特別委員会の諮問を受けたとしている。すなわち、形式的にはきちんとした手順を踏んでいるのだ。

 それでもオアシスは不満に感じた。彼らの目には、パナソニックの対応が「仏作って魂入れず」と映るからだろう。オアシスのフィッシャー氏は先のインタビューで「特別委員会にはパナホームが今回の株式交換で助言を受けた法律事務所に過去に所属していた弁護士が入っていたり、企業財務に精通しているとは思えない社外役員が入っていたりしている。これは問題だ。独立性の判断では形式より実態を重んじるべきだが、今回のケースは逆だ」「少数株主の保護は不十分だ。パナホームと特別委は親会社のパナソニックだけでなく、より高い価格を提示する他の買収者も募るべきだった」などと反論している。

■少数株主にも実質的な「平等性」の確保を

 オアシスから見れば、第三者機関や法律事務所も従来から両社と取引関係があるので実質的には独立性がなく、株価算定基準も恣意的と感じるのだろう。実際、東証が定めたコーポレートガバナンス・コードでは、その冒頭の「基本原則1」で以下のようにうたっている。

 すなわち、「上場会社は株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は株主の“実質的”な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の“実質的”な確保、権利行使にかかわる環境や“実質的”な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから十分な配慮を行なうべきである」と。要するに、「形式」ではなく、「実質」なのだ。

 昨年10月31日付のコラム「企業統治改革、海外投資家はどう思うか」でも述べたとおり、日本のコーポレートガバナンスが「仏作って魂入れず」ではないかとの疑念が海外勢に生じる恐れがある。経営危機に陥っている東芝も、形式的には「指名委員会設置会社」という先進的なコーポレートガバナンスの形態を取っていたにもかかわらず、実質的に機能していなかった。

 経営者にとってはすみづらい世の中になったと感じるかもしれないが、日本企業が世界の投資家から信認されるためには、取締役会は形式を整えるだけではなく、「実質的」に株主・投資家が保護されているかどうかを一層慎重に判断することが求められている。今まさに、日本の企業統治改革の本気度が問われているのだ。

安東泰志
 1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、88年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。2002年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業。三菱自動車工業など約90社の再生案件を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。

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