サーモン寿司はノルウェー発祥 日本を席巻するワケ
人口が僅か500万人程度の小国にもかかわらず、中国に次ぐ世界2位のシーフード輸出国がノルウェー。日本とほぼ同じ面積の国土は長い海岸線に恵まれ、水揚げされたシーフードの95%を輸出に回す。その額は年間100億ドル以上に上り、輸出先は146カ国に広がる。
「サーモン寿司」を自ら考案
なかでも日本は世界有数の「お得意様」だ。東京・南麻布のノルウェー王国大使館で、「お疲れサバです」とにこやかに迎えてくれたのは、ノルウェー水産物審議会の日本・韓国ディレクター、グンバル・ヴィエ氏。「世界を見渡しても日本のシーフード消費量は突出している。だから昔から『プロジェクトジャパン』を展開してきた」。
プロジェクトが始まったのは86年。当初の計画では、輸出の要はカペリン(カラフトシシャモ)だった。しかし、その前年、時の漁業相らが日本を視察して方針が変わった。日本には生のサーモンを食べる文化がない。江戸前寿司にもない生サーモンの握り寿司を考案し、試食会を重ねた。12年にはノルウェーの首相自ら日本の回転寿司店で振る舞うなど、徹底したプロモーションで「ノルウェーといえばサーモン」のイメージを30年かけて築き上げた。
養殖のため年中供給できる上、とろけるような食感が支持を集め、一気に人気が広がった。現在では輸入アトランティックサーモンの3分の2をノルウェー産が占めている。
「塩サバ」は日本の市場シェア8割
サーモンと双璧を成すエースがサバだ。ノルウェーでは、年間で最も脂が乗る「大ぶりで売れるサバ」を日本向けに輸出している。NSCによると、日本で流通するサバの50%以上がノルウェー産。塩サバに限れば80%に達する。大西洋サバの一種で、背中にくっきりと濃いしま模様があるのが特徴。冬に備えて最も脂が乗る9~10月に獲れたサバが日本向けに輸出される。脂肪含有量が最大30%と他産地より際立って多い。霜降りのようなジューシーさが受け、「塩サバは国産よりノルウェー産という人が増えている」(ヴィエ氏)。
サーモン、サバに次ぐ戦略魚が「フィヨルドトラウト」
フィヨルドで育てられたニジマスのうち、特に品質が高い「プレミアム魚」。かつては「サーモントラウト」と呼んでいたが、チリ産などと区別するため、10年にブランド化を図った。サーモン、サバに次ぐ戦略魚で、日本では輸入の8割がレストランに流通する。
突如増えた「北極圏のカニ」
日本人が好んで食すズワイガニやタラバガニ。実は近年、ノルウェー産の存在感が高まっている。旧ソ連時代、オホーツク海のカニが北極圏のバレンツ海に放流されたのをきっかけに、急激に繁殖。毎年、ノルウェーとロシアの間で漁獲量を取り決め、輸出に回している。
"シシャモ"として食卓に定着した「カペリン」
シシャモは北海道の太平洋沿岸のみに生息する日本の固有種。スーパーでよく見るシシャモはカラフトシシャモ(カペリン)で、ほぼノルウェー産だ。細長く、体高がほとんど均一なのが特徴で、子持ちのメスが人気。
ニシンは禁漁で漁獲量回復
ノルウェー沿岸は世界的なニシンの漁場。70年代初頭に乱獲のため、資源が一時枯渇したが、禁漁措置を経て漁獲量が回復した。一方、日本では水揚げ量が激減しており、ノルウェーの冷凍ものが食卓で重宝されている。
フィヨルドが産む高品質なシーフード
では、ノルウェー産の強みは何か。ヴィエ氏はフィヨルドの地形を挙げる。山からの雪解け水が海に混ざって魚が育つ絶好の塩分濃度となる。さらに漁船ごとに漁獲量を定めて乱獲を防ぎ、量より質の高収益な漁業を確立した。
ノルウェーはもともと欧米では数少ない捕鯨国で、日本との縁も深い。ノルウェーから届く海の幸も食卓に欠かせない存在となったが、ヴィエ氏はまだ満足していない。「北欧のデザインのように"ライフスタイル商品"として選ばれるようになりたい」。その言葉にシーフード王国の誇りを感じた。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2017年5月号の記事を再構成]
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