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汚水から?シャチの噴気に陸の病原体 ありえない菌も

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/4/10

ナショナルジオグラフィック日本版

一部海域で個体数が減少しているシャチ。科学者らは、汚水による健康状態の悪化を疑っている。(PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

 顕微鏡で見た病原体は見覚えのあるものばかりだった。例えば、家禽の肉にいるサルモネラ菌。これに汚染された卵、果物、野菜を食べると食中毒を引き起こす菌だ。そして、ブドウ球菌。吸い込むと肺炎の原因になりうるもので、ヒトの皮膚に一般的にみられる種もいる。真菌の存在は驚きだった。

 不可解なのはその種類ではなく、見つかった場所だ。

 科学者らがこれらの微生物を見つけたのは、ヒトの血液中からでも、納屋の生きものからでもない。米カリフォルニア州のモンタレー湾と、カナダ、ブリティッシュコロンビア州のクイーンシャーロット諸島とを行き来するシャチの息(噴気)からだった。

 研究者たちは、北米西岸でシャチが危機的状況にあり、個体数がわずか78頭にまで落ち込んでいる原因を解明しようとしていた。その過程で、人類がクジラ目の動物に悪影響を与えているかもしれない兆しがまた1つ明らかになった。感染症だ。

 北米太平洋岸のシャチ個体群「サザンレジデント・キラーホエールズ」についての研究が、オンライン科学誌「Scientific Reports」で2017年3月24日に発表された。その中で研究チームは、クジラ類と通常は関係のない感染因子を、噴気孔から吐かれた息から発見した。なかには、抗生物質に耐性のある病原体さえあった。耐性菌は人間の影響の指標となるものだ。科学者らは、豪雨や下水によってこうした病原体が沿岸の水路に運ばれ、シャチが危険な微生物に曝露されやすくなったとみている。

 「この個体群は、かなり長い時間を都市環境の近くで過ごします」と話すのは、米海洋大気局(NOAA)でシャチの個体数の回復を監視するブラッド・ハンソン氏だ。「直接的あるいは間接的に、陸地を流れる水によって、さまざまな物質がシャチの暮らす生態系に入り込んでいます」

■結果は控えめに言っても予想外

 研究チームは、米国とカナダの国境近くにあるサンフアン諸島周辺で、数年にわたってシャチの息と海水に含まれるサンプルを採取し続けた。調べた海水は、「海面ミクロ層(SML)」と呼ばれる、海面にあるごく薄い層。そこは微生物が特に多く、シャチが呼吸する際に少し取り込まれると推測されている。

 さらに研究チームは、約7メートル半のさおにペトリ皿をいくつも結びつけて、シャチの噴気孔から吐き出される噴気を集めた。

 その結果は、控えめに言っても予想外だった。普通はカキの中にいる細菌から、植物の病気の原因になるカビ、陸上の家畜の糞によくいる細菌まで、ありとあらゆる微生物が息から見つかったのだ。だからといって、シャチが病気になりうるほどの密度でこうした菌がいることを意味するわけではない。だがその多くは、研究者たちが「いるだろう」とも「いるはずだ」とも全く思っていなかった病原体だった。

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